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触ると枝が折れ曲がるオジギソウの動きでバルブを開け閉め

(2022年6月15日)

 今後、開発される機械システムは、あらゆる分野、用途で省エネルギー、省スペースが求められるでしょう。しかし、機械工学の既存技術では、そうしたクリーンな機械の実現は難しいと言わざるを得ません。そこで理化学研究所生命機能科学研究センターの田中 陽(たなか よう)チームリーダーらの研究グループは機械システムの開発に生物が持つ機能を取り入れることにしました。

 田中チームリーダーらは、これまでにもシビレエイの発電器官を取り入れた発電機や、ミミズの筋肉を搭載した小型ポンプなどの生物と機械を融合させたデバイスを開発してきましたが、この程、オギジソウの動きにより開閉が制御される小型の弁(バルブ)研究成果を発表しました。

 オジギソウは葉や枝に触れると枝の付け根からお辞儀(おじぎ)をするように折れ曲がることが知られています。一度、折れ曲がると元に戻るのに数分かかるため、短時間でバルブの開閉を繰り返すような用途には使えませんが、ゆっくりとした動きのバルブへの応用が期待できることから、オジギソウの動きで錘(おもり)を上げ下げして、水が流れるマイクロ流路のバルブを開閉する「オジギソウ駆動型バルブ」を試みました(図1)

図1 プッシュバーが錘で押さえられることでバルブが閉じていますが、オギジソウの枝が折れ曲がる力を利用して錘を持ち上げることでバルブを開けることができます。©理化学研究所

 

 ただし、オジギソウの動きで錘を持ち上げられなければ、バルブの開閉を制御することはできません。研究グループは鉢植え状態の枝、元の株から切り取り水を入れたチューブに挿した枝の駆動力を力センサーで調べることにしました。その結果、枝が折れ曲がる力は鉢植えの状態だと約16mN(ミリニュートン)ありました。切り離した枝の場合、1本では約9mNでしたが、2本の枝を合わせると鉢植えと同等の約16mNの力が生じて、バルブの開閉に利用できることが分かりました。切り離された枝でも水を入れたチューブに挿しておけば、2週間経っても約7mNの力を出せることも確かめられました(図2)

図2 オジギソウの枝が折れ曲がることによって生じる駆動力を調べた結果、鉢植えの状態だと1本の枝で約16mNの力が出せる一方、切り離した枝でも2本だと鉢植えと同等の約16mNの力が出ることが確かめられました。©理化学研究所

 実際に鉢植えのオジギソウを用いてバルブを開け閉めする実験を行ったところ、オジギソウを刺激して1.4秒後に錘が持ち上がって、水が流れることが確かめられました。その後、徐々に枝が上がるも、バルブが開いた状態は約8分間持続。休止時間の20分を挟んで、オジギソウの動きで3回以上繰り返してバルブを開けられました(図3)。切り離した枝でも錘を持ち上げてバルブを開けることはできましたが、バルブを開けた状態を維持できる時間は、鉢植えの枝よりも短く約2分間でした。

図3 鉢植えのオジギソウの動きでバルブの開閉を制御すると、一度の折れ曲がりで約8分間、バルブを開けることができました。20分間の休止期間を挟んで、バルブの開閉を3回以上繰り返せることも確認されています。©理化学研究所

 

 今回の研究では外部からのエネルギーを使わずにオジギソウの動きでバルブの開閉を制御できることが示されましたが、小型化はできておらず、省スペースに課題は残りました。それでもオジギソウ駆動型バルブが機能することを示せたことで、今後、植物の自律的なセンシングを取り入れ、例えば、乾燥時にバルブを開けて自走散水するスプリンクラーなどに応用できるかもしれません。   

 

 

【参考文献】

・理化学研究所のプレスリリース 「オジギソウ駆動型バルブ-植物の機能を用いた新しい生物機械融合デバイス-」

・Scientific Reportsに掲載された論文 「Bio-actuated microvalve in microfluidics using sensing and actuating function of Mimosa pudica

斉藤 勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。