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わかる科学

葉の形はオトシブミに利用されるのを防ぐために決まった?

(2019年10月17日)

ムツモンオトシブミとハクサンカメバヒキオコシ の写真と研究結果を模式的に示した図。© 樋口裕美子/京都大学

 植物の葉は、ブナのようにシンプルな形のものから、カエデのように大きな切れ込みがある複雑な形のものまで実に多種多様です。ただし、自然界で葉の形が決まる要因については詳しく分かっていませんでした。東京大学大学院理学系研究科附属植物園の川北篤教授と、京都大学大学院理学研究科の大学院生の樋口裕美子さんの研究グループは、オトシブミの生態に注目して葉の形を決める要因を解き明かす研究に取り組みました。

 オトシブミは植物の葉を筒状に巻いてゆりかご(揺籃)を作り、そこに卵を産み付けることで知られています。揺籃は産み付けられた卵から孵化した幼虫のエサになるとともに住処にもなるため、揺籃を作りにくい形だと、オトシブミにとって利用しにくい葉になるかもしれません。そこで研究グループは日本に広く生息しているムツモンオトシブミと、この昆虫が揺籃の材料として利用することが多いシソ科ヤマハッカ属のハクサンカメバヒキオコシとクロバナヒキオコシの2種を用いた実験を行いました。

 ハクサンカメバヒキオコシに大きな切れ込みがあるのに対して、クロバナヒキオコシには切れ込みはありません。両種が自生している北陸地方でオトシブミによって作られた揺籃の数を比較したところ、ハクサンカメバヒキオコシに比べて、クロバナヒキオコシのほうが1.6倍から73倍も多く揺籃が作られていました。さらに飼育下での両種の葉をムツモンオトシブミに選ばせる実験でも、同様にクロバナヒキオコシのほうが多く選ばれる傾向が確認されました。

 こうした結果だけでも葉の切れ込みが、オトシブミが揺籃の材料にする葉を選ぶ際の決め手になっていると考えられますが、葉の形以外に成分などが影響している可能性も否定できません。そのため研究グループは、クロバナヒキオコシの葉を人為的にハクサンカメバヒキオコシに似た切れ込みのある形にして、同じクロバナヒキオコシで、切れ込みのある葉と切れ込みのない葉をオトシブミに選ばせる実験を行ったところ、オトシブミは切れ込みのない葉でより多くの揺籃を作ることがわかりました。

 揺籃を作る際の行動の観察でも、加工前に葉の上を歩き回って、その葉が揺籃を作るのに適切かどうかを調べる「踏査」の段階で、切れ込みのあるハクサンカメバヒキオコシの葉が敬遠する様子が観察されました。こうした結果から、研究グループはハクサンカメバヒキオコシの葉の切れ込みはオトシブミに利用されるのを防ぐためのものだと考えました。

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記事執筆:斉藤勝司
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