[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

自然の造形美を身近な食用粉で再現してみよう

(2020年4月15日)

(図1)伊豆須崎半島で見られる美しい情景。人気の水仙群生地の奥にあります。

 沢山の六角の柱が並んで広がる情景は「これは自然が作ったものだろうか?」と疑いたくなるほど見事な造形です。これは、「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と言います。北海道の層雲峡をはじめ、各地で観光の目玉になっています。関東では伊豆半島下田の爪木崎俵磯(つめきさきたわらいそ)にあります。
 図 1 のように、岩体が海岸にやや傾いて積み重なっています。これは、ドロドロした流動体であるマグマが冷えて固まる際に自然に出来る配列パターンです。高温のマグマが空気に触れている上の面から徐々に冷えていく際に、固体状になります。その際、密度が増すので収縮します。
 ところが、マグマは一定量であって、新たに供給されることがないので、どこかに隙間が出来ることになります。それは、図2に示したように、不均一となって成長していきます。結果として多角形の集まりになってくるはずです。実際、割れ目の交点の数を数えると、多角形は、4~6角形になって分布しています。溶岩では、空気に触れた表面層から徐々に冷えていきますので、その割れ目は縦(鉛直)方向に成長していくことになります。

(図2)マグマが冷えて固まる時の収縮の様子を想像する。隙間は6角形が多いが5角形、4角形も。

 

 身近な材料を使って、このようなパターン形成を再現することができます。
 コーンスターチという食用の粉(以下、粉という)を使って、実験をしてみましょう。

 粉50g に対して、水100 g を加えて一様になるまでかき混ぜます。それを紙コップに注いで、数日放置して乾燥させます。すると、表面に乾いた田んぼのような割れ目構造が現われます。コップからとり出そうとすると、図3のように崩れてきます。

(図3)コーンスターチの液を乾燥して取り出す。暖かい時期はカビに注意。
(図4)崩していくと奥に柱状構造が現れます。小麦粉の場合は粒の大きさが不ぞろいのため構造が乱れる場合があります。

 さらに、コッ プを破っていくと図4のように、表面から底に向けて、全体が柱状構造を成していることがわかります。ここで見ているのは、乾燥過程です。全体が乾いて収縮してくる時、体積減少 によって隙間が出来ます。その隙間が一様に出来るとすると、六角形を平面に並べた蜂の巣格子状になるはずです。でも実際の自然界では、乱れが生まれ、多角形模様になるわけです。

 このテーマは地学と数理科学の境界にあり、現在研究が進んでいます。

 

夏目 雄平(なつめ ゆうへい)

 千葉大学名誉教授・グランドフェロー(国際教育センター)。固体物性物理学専攻。最近の著書に「やさしく物理」(朝倉書店)、「やさしい化学物理~化学と物理の境界をめぐる」 (朝倉書店)など。 「理科の探検」 (SAMA 企画)編集委員など。文系の著書に「小さい駅の小さな旅案内」 (洋泉社新書)など。各地でサイエンスイベントを行っている。
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