[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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省エネに役立つ!? 強度と冷却効果を備えた新素材を開発

(2019年6月15日)

 居並ぶビル群では、冷暖房のために、日々大量のエネルギーが消費されています。アメリカでは、国内のエネルギー需要の40%以上がビルで消費されており、そのうちの約半分は冷暖房に使われています。特に室内の冷房はより多くの電力を消費するため、自然に冷却する素材の開発に期待が寄せれられてきました。しかし、多くの研究がなされてきたにもかかわらず、実用性のある素材は、未だに開発されていません。

 このほど、メリーランド大学やコロラド大学ボルダー校(共にアメリカ)を中心とする研究グループは、強度があり、かつ冷却効果を備えた新素材の開発に成功しました。

 着目したのは木材です。樹木の幹の主要な成分はセルロースとリグニンで、細胞壁に存在します。これらの成分は樹木を支える働きがあります。木材を鉄筋コンクリートにたとえるなら、セルロースは鉄筋、リグニンはコンクリートのようなものです。

 研究グループは、木材に化学的な処理をして、リグニンを除去した後、機械的に圧縮しました。こうしてできた新素材は、セルロースがナノオーダーにまで微細化したセルロースナノファイバーと呼ばれる素材で構成されていることが確認されています。面白いことに、リグニンが除去されたことで、セルロース同士が互いに高密度で水素結合して、より強度を増した素材ができたのです。実験の結果、新素材は、木材よりも8倍以上の強度をもつことがわかりました。

 この新素材は、明るい白色で光沢があります。これはナノセルロースファイバーの配列が変化したことにより、太陽の熱や赤外光などを反射しやすくなったことと関係しているようです。この新素材は熱を吸収にくく、冷却されやすい性質を備えていました。つまり、エネルギーを使わずに冷却される効果があるというわけです。

 この強度と冷却効果を備えた新素材は、ビルなどの建築資材として活用されるかもしれません。今回の研究では、アメリカの16都市で素材を使用した場合のエネルギー削減効果がモデル解析され、冷房のためのエネルギーを20~50%削減できることがわかったのです。

 研究グループでは、より完全なリグニン除去や木材圧縮の技術を開発できれば、木材は更に強度を増し、セルロースナノファイバーの配列変化によって、より冷却効果が高まるだろうと考えています。鋼のような強さをもち、熱を吸収しにくい新素材の開発は、省エネに大きく貢献するものと期待されます。

 

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記事執筆:保谷彰彦
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