[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

温暖化の影響でホッキョクグマが栄養不足に

(2018年3月01日)

氷の割れ目からアザラシが顔を出すのを待ち伏せしているホッキョクグマ。ⒸMike Lockhart, USGS

 極寒の北極圏に生息するホッキョクグマは、体温を維持するために体内に脂肪を豊富に蓄えたアザラシを好んで捕食しています。
 本来、ホッキョクグマは陸上動物なのですが、一生のほとんどを海を覆う氷の上で過ごし、氷の割れ目から顔を出したアザラシや氷上で休んでいるアザラシの赤ちゃんを狙って狩りをします。

 しかし、ホッキョクグマに必要不可欠な海氷が地球温暖化の影響で縮小して、アザラシを捕食しにくくなっているのではないかと心配されるようになりました。そこでアメリカ地質調査所(USGS)、カリフォルニア大学サンタクルーズ校などの研究グループは、ホッキョクグマの栄養が足りているかどうかを明らかにする調査を実施しました。
 栄養が足りているかどうかを明らかにするには、栄養摂取量の情報となる捕食したアザラシの数だけでなく、栄養の消費量の推定につながる行動も詳しく調べなければなりません。研究グループは北極海の一部であるボーフォート海でメスのホッキョクグマ9頭を捕獲して、GPS発信機やカメラなどを搭載した首輪を取り付け、8~11日間に渡って、その行動を追跡しました。

ホッキョクグマの首にデータロガーが取り付けられ、氷上での動き、行動、狩りの様子などが調べられた。ⒸAnthony Pagano, USGS

 氷の割れ目から顔を出したアザラシを狙うことからもわかる通り、ホッキョクグマの狩りはもっぱら「待ち伏せ型」で、アザラシを捕らえるのに消費する栄養は必要最小限に抑えられていると推定されていました。しかも、生きていくのに必要なアザラシを捕食できないと、代謝を抑えてエネルギーを節約できると考えられていました。ところが、今回の調査でホッキョクグマの行動を調べた結果、ホッキョクグマのエネルギー消費は、これまでの推定よりも50%程度大きいことが明らかになったのです。
 その上、栄養の消費に見合った量のアザラシを捕獲することはできておらず、再捕獲して、その体を詳しく調べたところ、9頭中5頭の体重が減少していたことが明らかになりました。そのうちの4頭に関しては体重の減少が激しく、10%以上も減っていたといいます。短期間にこれだけの体重減少が起これば餓死すら心配されます。
 今回の調査でホッキョクグマが危機的な状況に置かれていることが明らかになりました。USGSの報告によると、ホッキョクグマの個体数は過去10年間で約40%も減っているといいます。これ以上ホッキョクグマを減らさないためにも、私たちは海氷の原因となる地球温暖化の対策により一層取り組まなければなりません。

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記事執筆:斉藤勝司
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