[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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民生品を利用した電子回路で宇宙通信セキュリティ実験に成功

(2019年9月06日)

今回の飛行環境下の実験に用いたMOMO3の打上げ及び本開発技術の実験回路

 宇宙開発はこれまで、アメリカではNASA、日本ではJAXAといった巨大な国家機関が進めてきました。しかし人工衛星も商用利用を目的としたものが増え、より低コストで打ち上げを行う民間のロケットベンチャーが注目されています。

 例えばアメリカでは、イーロン・マスク率いるスペースX社が有名で、すでに国際宇宙ステーションISSに物資を送ることに成功しています。日本ではインターステラテクノロジズ株式会社がロケットの打ち上げ実験を行うなど、いくつかの企業が宇宙ビジネスに参入しようとしています。

 民間の宇宙開発では、打ち上げコストの削減が重要な課題です。同時に、安全性・耐久性・信頼性も従来のロケット同様に満たさねばなりません。そこで今、小型ロケット向けの民生用電子部品を利用した機器の研究が積極的に進められています。

 インターステラテクノロジズ社は、MOMOと呼ばれる商業用ロケットの開発を行っており、2017年7月に初号機、2018年6月に2号機を打ち上げましたが、残念ながらうまくいきませんでした。しかし、2019年5月4日に打ち上げられた3号機は高度約113kmに達し、日本の民間ロケットとしては初めて宇宙空間に到達したロケットとなりました。宇宙とは、国際航空連盟FAIによって、高度100kmより上と定義されています

 ロケットに搭載された電子機器は、打ち上げ時の大きな荷重(G)や振動、さらには宇宙空間に到達したときの地上とは大きく違う宇宙環境に耐えることができなければなりません。今回の3号機では、小型ロケット向けに開発された通信セキュリティ技術が情報理論的に問題のないことを実証するための電子回路が搭載されていました。

 この装置は、情報通信研究機構(NICT)、インターステラテクノロジズ株式会社、法政大学が共同で開発した実験用電子回路です。外部から第三者が通信システムに侵入しても妨害・改竄されることのないように、通信に用いる暗号鍵の不一致の検出と再利用の防止、情報秘匿と相手方認証・改竄の検出の仕組みなどが取り入れられています。ロケットの飛行時に送受信したデータを確認したところ、セキュリティ処理は完璧に機能していたと言います。

 ロケットは、邪悪な事をたくらむ人々の手に渡るとミサイルに転用されかねません。平和利用の民間ロケットが、そういう人たちに乗っ取られないよう、国はセキュリティのガイドラインを定めています。今回の実験は、その要望に応えることができるものでした。

 また、民生用電子部品を利用してコストを大きく下げながらも、セキュリティを守った点にも注目されます。この成果を一歩として日本の民間ロケット技術が大きく飛躍してほしいものです。

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記事執筆:白鳥敬
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