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寄生植物ヤドリギの巧妙な生存戦略を発見!?

(2021年4月01日)

砂漠のヤドリギ(Phoradendron californicum)の果実。この果実を食べた鳥によって、種子が散布される。@Don Loarie

 ヤドリギ類は樹木に寄生する植物です。その多くは、樹木の中を流れる水分やチッ素、リンなどの無機養分を吸い上げて、自らの光合成に利用します。こういった生活の仕方を半寄生植物といいます。さらに、ある種のヤドリギでは宿主の維管束に流れ込んだ糖類を吸収していることも知られています。宿主である樹木は、根から吸い上げた水分や無機養分、あるいは光合成で作り出した糖類などをヤドリギに奪われてしまうのです。ヤドリギは得をして、宿主は損をする関係というわけです。

 今回、研究されたのは、砂漠のヤドリギ(Phoradendron californicum)です。モハーベ砂漠やソノラ砂漠(いずれもアメリカ)などの乾燥した環境に生育しており、主な宿主はマメ科の樹木であるProsopis属の植物です。乾燥した地域なので、ヤドリギにとっても、宿主にとっても、水分や栄養分はとても重要。それだけに、気象条件や宿主の状態によっては、寄生された宿主が枯れやすくなるという報告もあるほどです。ここで複数のヤドリギが同時に同じ宿主に寄生することがありますが、その時、ヤドリギ同士、あるいはヤドリギと宿主の間でどのような変化が起こるのかは、謎に包まれていました。

 このほど、カリフォルニア大学リバーサイド校(アメリカ)を中心とする研究グループは、2個体のヤドリギが同じ樹木に寄生すると、ヤドリギは自ら光合成活性を高めることで、結果として寄生した樹木に対して害を少なくしていることを発見しました。この成果は、国際誌『Current Biology』に掲載されています。

 この研究では、宿主とヤドリギの関係を、葉での光合成活性や蒸散量、チッ素や炭素の量などを測定して調べました。そして、同じ枝に寄生した2個体のヤドリギのうち、 1個体だけを実験的に取り除くと、残されたヤドリギでは光合成の活性が低下し、宿主からの水の摂取量も減ったのです。つまり、ヤドリギの代謝が変化して、宿主からより多くの糖類などを吸い上げるようになったと考えられます。このように、ヤドリギは、同じ枝に他のヤドリギが寄生していれば、自らの光合成活性を高めて、結果として宿主への依存を減らします。一方、他のヤドリギがいなければ、自らの光合成活性を低下させて、宿主への依存を強め、宿主からより多くの糖類などを吸い上げていたのです。

 同時に寄生しているヤドリギ同士が、どのようにコミュニケーションをとっているのかは謎です。研究グループではいくつかの可能性を考えています。例えば、ヤドリギは宿主の維管束とつながっているので、ヤドリギ同士が維管束を通じて、何らかの情報を得ている可能性があります。また、お互いに「匂い」がメッセージになっているのかもしれません。植物では、揮発性の化合物を生産し、それを気孔から放出することが知られています。それらの化合物を通じて情報をやりとりしている可能性もあります。さらなる研究に期待が高まります。

 

【参考】

Intraspecific competition for host resources in a parasite

保谷彰彦

文筆家、サイエンスライター。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。専門はタンポポの進化や生態。著書に『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」が掲載中。

http://www.hoyatanpopo.com