[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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五島列島のゲンジボタルは最も速く点滅していた

(2020年3月15日)

ゲンジボタル(写真提供:長崎大学大庭伸也准教授、写真撮影:上田浩一)

 本州、四国、九州に分布する日本固有種のゲンジボタルは、毎年5~6月になると、きれいな小川周辺で腹部を光らせていることが観察され、初夏の風物詩になっています(写真)。こうしたゲンジボタルの発光は繁殖目的にオスとメスが出会うために行われているのですが、その点滅パターンは地域によって異なることが知られています。

 過去の研究から中部山岳地帯を境に、東日本にはゆっくりと(4秒に1回)点滅する東日本型が、西日本には速く(2秒に1回)点滅する西日本型が、その中間付近には3秒に1回の中間型が分布していることが分かっていました。

 ところが、長崎大学教育学部の大庭伸也准教授と同学部学生の沼田郁さん(2017年卒業)、下関市立豊田ホタルの里ミュージアムの川野敬介博士の研究グループが、長崎県を中心に約40か所でゲンジボタルの点滅パターンと遺伝子を調べたところ、五島列島(宇久島、中通島、若松島、福江島)には、これまでに報告されていたものよりも速く、1秒に1回の間隔で点滅する個体群が分布していることが明らかになりました。

地域によって異なるゲンジボタルの点滅パターン(画像提供:長崎大学大庭伸也准教授)

 
 五島列島のような離島は本土から海で隔てられているため、そこに暮らす生物は遺伝的な交流が乏しく、特徴的な形質を持ちやすいと考えられますが、同じ長崎県の離島であっても対馬島、壱岐島、平戸島、生月島に分布しているゲンジボタルは2秒に1回点滅する西日本型であり、1秒に1回点滅する特徴は五島列島のゲンジボタルにだけ見られる興味深い特徴です。

 同じ長崎県の離島では、絶滅危惧種のツシマヤマネコが棲息することもあって、これまで対馬への関心が高く、ゲンジボタルについても先行して対馬での研究が進められ、五島列島についてはほとんど注目されていませんでした。そのため五島列島の自然には未解明の謎が多く残されているのですが、今回、ゲンジボタルのような注目度の高い昆虫で他の地域と異なる特徴が見いだされたことで、今後、五島列の自然の貴重さが広く認識され、その研究が進むと期待されています。

 

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