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事故の原因は騒音だった!?~交通騒音でカエルの動きが鈍くなる

(2019年2月01日)

研究対象としたニホンアマガエル(Hyla japonica)
画像提供/北海道大学農学部 中野百合華

 私たち人間が暮らしやすいように、山野を切り拓いて街や道路を建設すると、どうしても野生生物の生息地を分断することになってしまいます。分断された生息地に留まって暮らすわけにはいかず、野生動物の多くが人間の生活空間を横切って移動するため、交通量の多い道路では、しばしば自動車と野生動物による交通事故が発生しています。特に移動性の乏しいカエルが自動車に轢かれることが多いのですが、その一因に自動車が発する騒音が関わっている可能性を示す研究成果が発表されました。
 北海道大学大学院農学研究院の石山信雄さんと、国立環境研究所の先崎理之さんの研究グループは、交通騒音がカエルの行動に及ぼす影響に注目しました。もし騒音によってカエルの動きが遅くなるようなことがあれば、自動車の騒音が発生する道路上で動きが鈍くなり、交通事故に遭う確率が高まってしまうからです。
 この仮説を検証するため、研究グループは2017年の夏に森林総合研究所北海道支所の構内に、実際にカエルが移動する可能性のある森林、草地、そして、道路の代わりとなる植物の生えていない裸地の3種類の実験区(幅1.5m×長さ25m)を用意。札幌市内で採集した二ホンアマガエル(上写真)76個体を対象に、交通騒音が行動に及ぼす影響を調べました。
 スピーカーを用いて交通騒音を聞かせる条件と、聞かせない条件で、各実験区での二ホンアマガエルの移動距離がどのように変化するかを調べたところ、森林と草地では騒音の影響は認められなかったのに対して、裸地では聞かせなかった場合よりも、騒音を聞かせたほうがカエルの移動距離が約30%も短くなることが明らかになりました(下図)。つまり、交通騒音によってカエルの動きが鈍くなったのです。
 道路上での動きが鈍くなれば、それだけ自動車に轢かれる危険性は高まるはずです。そのため今回の研究成果を受けて、実際の道路上でも同じように騒音でカエルの動きが鈍くなるかどうかを調べていく必要があります。その結果、騒音がカエルの交通事故の一因になっているなら、騒音を抑えて、少しでも自動車に轢かれるカエルを減らす対策が求められるでしょう。

実験結果:森林、草地、道路を模した人工的な裸地の3タイプで実験を行った結果、人工的な裸地でのみ統計的に有意な騒音の影響が検出された。 画像提供/北海道大学大学院農学研究院 石山信雄
 

 

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記事執筆:斉藤勝司
 http://www.kodomonokagaku.com/