[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

わかる科学

世界最強の外骨格を持つ甲虫の謎を解き明かして工業製品に応用する

(2020年12月01日)

(写真1) 甲虫類の中で最も頑丈な外骨格を持つコブゴミムシダマシ (提供:カリフォルニア大学アーバイン校 David Kisailus教授)

 硬い外骨格で覆われている甲虫の中でも、北アメリカの西海岸に分布するコブゴミムシダマシ(写真1)は、体長約3cm、体重0.5g程の小さな甲虫であるにもかかわらず、最も硬い外骨格を持つことで知られています。自動車に踏まれても潰れないほど頑丈であることから、英語で「アイアンクラッド・ビートル」(鋼鉄で武装した甲虫)と呼ばれるほどです。

 日本から東京農工大学大学院工学研究院の新垣篤史准教授、大学院生の村田智志さんが参加した、カルフォルニア大学アーバイン校、パデュー大学、ローレンスバークレー国立研究所、テキサス大学サンアントニオ校からなる国際研究グループが、コブゴミムシダマシの外骨格の強度を測定したところ、自身の体重の39000倍の重さに耐えられることが明らかになりました。この強度を体重60㎏の人間の置き換えると、約6トンのアフリカゾウが約400頭に乗られても耐えられる強度に匹敵するというのですから、コブゴミムシダマシの外骨格がいかに頑丈であるから分かるでしょう。

 こうした外骨格は鳥類や爬虫類などの外敵から身を守るために進化したと考えられていますが、これほどの強度がどのように得られるのかは明らかになっていなかったことから、研究グループはコブゴミムシダマシの外骨格に秘められた謎の解明に取り組みました。外骨格の構造と成分を詳しく分析した結果、一般的な甲虫の外骨格の成分にもなっている糖類のキチンとタンパク質でできた繊維の束が何層にも積み重なっていることが明らかになりました。この層構造によって外骨格に加わった力を分散させていたのです。

 さらに翅の接合部はジグソーパズルのピースに似た2対の凸凹構造でつながっていることが分かりました(写真2)。カブトムシの翅の接合部も1対の凸凹構造でつながっていることから、研究グループは凸凹構造の数と強度の関係を調べました。外骨格の構造を模したカーボンシートを作って強度を比較したところ、2対だと強度が高められることが判明。コブゴミムシダマシの外骨格が頑丈な仕組みが解き明かされました。

(写真2) 翅の接合部は2対の凸凹構造でつながることで高い強度を得ていることが明らかになりました。
(提供:カリフォルニア大学アーバイン校 David Kisailus教授)

 小さな甲虫でもこれだけ頑丈になるのですから、今後、コブゴミムシダマシの外骨格の構造を工業製品の設計に取り入れることで、より軽く、頑丈な製品を設計できるようになるのではないかと期待されています。

 

【参考】

https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2020/20201022_01.html

https://www.nature.com/articles/s41586-020-2813-8

https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/13485

斉藤勝司

サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。