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リュウグウまであと1年 ~「はやぶさ2」の長い旅~

(2017年8月15日)

「はやぶさ2」軌道模式図 黄色がイオンエンジン運転中

 さる7月12日、多くの取材陣の前に立ったJAXA(宇宙航空研究開発機構)の津田雄一プロマネ(「はやぶさ2」プロジェクトマネージャ)は終始笑顔だった。打ち上げから約2年半、「はやぶさ2」は順調に飛行を続け、目標である小惑星「リュウグウ」までの道すじが見えてきた自信に裏打ちされているようにみえた。

 軌道の図を見てもらいたい。
(出典:JAXAウェブサイトより    http://www.hayabusa2.jaxa.jp/
2014年12月の打ち上げから3年半、これは「はやぶさ2」の「リュウグウ」までの往路に必要な時間だ。地球スイングバイまで1年、そこで加速して楕円軌道を2周弱して2019年夏にようやく「リュウグウ」に到着する長い旅だ。
 現在は、「リュウグウ」より内側の軌道で「リュウグウ」を“追いかけっこ”(太陽に近いほうが速度が速いため)している段階だ。打ち上げ年の制約で、スイングバイした時点で相手の「リュウグウ」がずっと先にいるため、それから2年半というかなりな時間を“追いかけっこ”に使う必要があったのだ。(「はやぶさ」の場合はスイングバイから「イトカワ」到着までは1年半弱)

 8月現在、軌道を変えるイオンエンジンの噴射はお休みしているが、2018年初めからは「はやぶさ2」のイオンエンジンとしては最長時間となる約2700時間の運転を行い、6~7月ようやく「リュウグウ」の近くに到着する予定だ。

最新の観測から「リュウグウ」の大きさは900mより少し小さく、明るさに大きな変化がないので、球形に近い形をしていると考えられている。自転の軸もおおよその方向しかまだわかっていない。「はやぶさ」が行った「イトカワ」は接近前に地上からのレーダ観測が行われ、おおまかな形状や自転軸の向きは事前に決まっていた。「リュウグウ」はあまり地球に接近しないためレーダによる観測ができないので「はやぶさ2」が接近するまでこれ以上のことは解らない。

「リュウグウ」に接近してからの「はやぶさ2」の運用について、記者会見の資料をもとにみてみよう。(現時点での暫定的なシナリオに基づく)

・初期の観測を実施、着陸候補地点を探す
 (現時点であいまいな自転軸確定。「リュウグウ」の3Dモデル作成。サンプル採取の意義が高
  く、かつ着陸にむいた平たん地を探す等)
・接近して、小型ローバーを分離、降下させる
 (ドイツで制作されたMASCOT、国内でJAXAや大学によって開発された3基のMINERVA-Ⅱ)
・タッチダウン#1(最初のサンプル採取)

ここまでが2018年中に予定されている

・2019年初めに タッチダウン#2
・衝突装置(インパクタ)分離、爆破、クレータ生成
・生成されたクレータへの降下、タッチダウン#3

 2019年6月頃までに一連の運用を終了、年末に「リュウグウ」離脱、地球へ。

 このスケジュールによれば、私たちが「リュウグウ」の姿をまじかに見るのは、来年の7月頃。表面の細かい様子を知るのは小型のローバーを降下させる秋以降になる予定だ。

 変哲もない楕円体とみられていた「イトカワ」が“ラッコの形”であることを驚愕の目で見てから13年目。今は球形に近い形としかわかっていない「リュウグウ」の意外な姿に驚かされるまであと1年を切った。

「リュウグウ」ランデブー   ©イラスト:池下章裕

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。