[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

サケの骨から回遊ルートがわかる!?

(2020年5月01日)

図1 北太平洋における窒素同位体比の違いを示した地図(アイソスケープ)(画像提供/海洋研究開発機構)

 川で卵から孵ったサケは、海に降って約4年をかけて広大な北太平洋を回遊して、生まれ故郷の川に戻ってくることが知られています。しかし、小さな稚魚のうちに海に降るため、発信機など調査機器を取り付けて行動を追跡することは難しく、現在の技術をもってしても詳細な回遊ルートを明らかにすることはできていません。

 そこで海洋研究開発機構、東北大学、水産研究・教育機構、北海道大学、東京大学、総合地球環境学研究所の研究グループは、サケの詳細な回遊ルートの解明に取り組むことにしたのですが、その際、窒素の同位体比率に注目しました。

 同位体とは原子核を構成する陽子と中性子のうち、中性子の数が異なる原子のことを指します。窒素の場合、ほとんどは陽子と中性子はともに7個なのですが、中性子が6個のものや8個のものなど、多種多様な同位体が存在します。こうした同位体の比率は、海域によって異なっていることから、研究グループは最先端の分析技術を駆使して、サケが回遊する北太平洋の同位体比地図(アイソスケープ)を作成しました(図1)

 一方、サケの背骨(脊椎骨)は、まるで樹木の年輪が積み重なるように大きくなっていくため、脊椎骨の中心部は稚魚期に、その外側は若魚期に、最も外側は成魚期にできたものです(図2。 サケの脊椎骨に含まれる窒素の同位体比を調べれば、成長段階のいつの時期にどこを回遊していたのかを推測できるでしょう。

図2 サケの脊椎骨は、中心部は稚魚期に、その外側は若魚期に、最も外側は成魚期にできるため、成長段階のどの時期に、どの海域を回遊していたかを調べるのに利用できる。(画像提供/海洋研究開発機構)

 

 実際に北日本の複数の河川で採集されたサケの脊椎骨を調べて、稚魚、若魚、成魚それぞれの時期にできた部分の窒素同位体比と、海域ごとの同位体比率を照合しました。その結果、日本の川で生まれたサケは成長とともに太平洋を北上し、最終的にベーリング海東部の大陸棚に到達していたことが明らかになりました(図3。ベーリング海はサケがエサにできる生物が非常に豊富であるため、ここでたっぷりと栄養を身に付け、日本に帰ってきた繁殖していたのです。

図3 サケの脊椎骨に含まれるアミノ酸(フェニルアラニン)中の窒素の同位体比から詳細な回遊ルートが明らかになった(画像提供/海洋研究開発機構)

 こうしてサケの回遊ルートを明らかにした窒素同位体比を使った研究手法は、期待太平洋を回遊するあらゆる動物種に用いることができるため、今後、さまざまな動物の回遊ルートの解明に役立つと期待されています。

 

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記事執筆:斉藤勝司

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