[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

カニの甲羅成分から生まれた、水をはじいて光を通す断熱材

(2017年10月01日)

従来のキトサンエアロゲルと今回開発された撥水エアロゲルへの水滴滴下の様子。撥水エアロゲルでは撥水性が高く、水滴が吸収されずにほぼ球状を保っているのがわかる。(画像提供/産業技術総合研究所)

 近年、あらゆるシーンで省エネが叫ばれています。建物も例外ではありません。住宅やビルの壁の中には断熱材が入っていて、外部との熱の交換を遮断しています。ただし、窓は例外で、ガラスを通して光とともに熱が出入りします。そこで、窓を断熱化しようという素材が開発されました。

 開発したのは、産業技術総合研究所化学プロセス研究部門・階層的構造材料プロセスグループの竹下覚研究員と依田智研究グループ長です。
 窓は外が見え、雨を遮断し、強い陽射しや強風にも耐えることができなければなりません。研究グループは、カニの甲羅の成分キトサンに着目しました。キトサンに独自の化学処理を施し、直径5~10nm(1nmは10億分の1m)の微細な繊維が3次元的に絡み合った撥水エアロゲル(繊維状の多孔質の物体)をつくり上げました。

 また、化学的に疎水化させるプロセスの開発にも成功しました。疎水化とは水と結合しにくい分子を表面に並べることです。今回開発した技術で生成した撥水エアロゲルは、水滴がついても即座にはじき返し、水を内部に浸透させません(写真)。撥水性については、一定の条件下で、水滴接触角120度を示したといいます。これは普通の良好な撥水性に相当します。
 この3次元の網目構造を持つ新材料は、体積の96~97%が空隙となっています。中がスカスカのスポンジのようなイメージです。強く圧縮しても(90%以上の圧縮変形)、均一に圧縮され、割れることはないといいます。
 光の透過性については、空隙が多くキトサン繊維のサイズが100nm以下で光の波長よりも小さいため、可視光(波長400~800nm)を通過させます。材料の厚さ1mmに換算して、800nmの光(赤い光)の透過率が78%といいます。

 今後は、さらに透明度を高めるとともに、耐湿性・対候性を高め、実用的な断熱材を目指して研究を進めるそうです。将来、壁だけでなく窓ガラスでも断熱し、エアコンの使用量を控えた、省エネでありながら快適な住まいが実現するかもしれません。

 

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記事執筆:白鳥 敬
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