[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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わかる科学

「はやぶさ2」便り1  ~ ついた、見た、測った ~

(2018年8月01日)

リュウグウとイトカワの比較
(天の北極を上にした)大きさは実際の比率に合わせた(イトカワは約500m)どちらも南北に立った自転軸で地球とは逆向きに回転している

 2018年6月27日、小惑星リュウグウの上空20km、「はやぶさ2」は3年半の旅を経てようやく目的地に“ついた”。

 ちょうど1年前のコラムで私はこう書いた

「変哲もない楕円体とみられていた「イトカワ」が“ラッコの形”であることを驚愕の目で見てから13年目。今は球体に近い形としかわかっていない「リュウグウ」の意外な姿に驚かされるまであと1年を切った。」

 実際に到着して“見た”リュウグウの姿に多くの研究者が驚いた。それは大きさが約900mの「Top Shape:コマ型」または「ソロバン珠型」をしていたのだ、その姿は事前の想定とはずいぶん違ったものだった。自転の軸は地球からの観測では軌道の面に対してかなり寝ているという予想に反して南北に立っていた。(画像参照)しかも地球とは逆回りの回転だった。自転周期は推定通りの7.6時間。予想通り表面は黒く、太陽の光の5%くらいしか反射しないこともわかった。
 直径200mを越えるクレータ(画像の赤道左寄りに)、100mを越える巨大な岩塊(ボルダーと呼ぶ)がごろごろしている表面は事前の予測を大いに裏切った。リュウグウのように小さくて重力の弱い(地球表面の1万分の1以下)天体では衝突した時の破片をとどめるのはかなり難しい。クレータの多さは表面が相当に古いことを物語っている。コマ型は、もともと球形に近かったラブルパイル天体(イトカワのように岩塊が重力で集まっただけのすきまだらけの天体)が高速で回転することで粒子が赤道へずり落ちて中緯度が痩せて、赤道に尾根(リッジ)を形作ることによって出来たと言われている。7.6時間の自転でそうなるのか、あるいは何かの原因でコマ型になった後で自転が遅くなったのか・・・次々と疑問がわいている。

 今年の終わりに、小惑星ベンヌにアメリカの探査機OSIRIS-Rex(オサイリス・レックス)が到着する、ベンヌは地上からのレーダ観測により大きさが約560mの「コマ型」と考えられている。「はやぶさ2」にはこれからコマ型小惑星を世界で初めて詳細に調べる任務がまっている。

 

■「はやぶさ2」これから年内の予定 (7月19日の記者会見資料を基にした)

・サンプル採取、ローバー降下候補地点を探す(主にONC:光学航法カメラ)
 高度20kmのホームポジションから、さらに高度を5~1km程度まで降下させて表面を詳細に観測
(リュウグウの3Dモデル作成。サンプル採取の意義が高く大きな岩の少ない平たん地を探す等)

・リュウグウの重力を測る(LIDAR:レーザ高度計)
 8月はじめに約1kmの高度まで自由降下させる(リュウグウの重力に引かれるままに降下させて重
 力を測定する)その間LIDARで高度変化を精密に測定 

・表面の温度を測る(TIR:中間赤外センサー)
(昼と夜の表面温度変化を“測る”、サンプル採取点の温度を測定。温度変化から、表面が一枚岩のよ
 うな状態か細かな粒に覆われているかを調べる)
 3Dモデルが出来て体積がわかり、重力(重さ)が正確にわかると平均密度が計算できる。それによって、リュウグウが様々な大きさの岩塊が集まったラブルパイルか一個のかたまりかがわかる。
 こういった予備的な観測を経て9月からいよいよ降下、タッチダウン運用を行う予定。

・9月以降に小型ローバーを分離、降下
 (MASCOT、MINERVA-Ⅱ)

・9月以降にタッチダウン#1(最初のサンプル採取)

 これからも「はやぶさ2」はリュウグウで大きな驚きを私たちに届けてくれるだろう。2020年末にはリュウグウから玉手箱に入った太陽系の謎を運んでくれるに違いない。

 

 追記:7月25日。高度を6kmまで下げた20日の画像が公開された。リュウグウがONCの視野から外れるほど大きくなった、分解能は60cm。ここまで近づいても表面は一面の岩塊に覆われており、大きなクレータの内部にも岩塊が多数みられる。イトカワの表面に似たラブルパイル天体に特有の姿に見える。8月7日には「重力計測降下」として、高度をさらに1km台まで下げる運用が予定されている。分解能はさらに5倍程度上がり10cm程度のものまで見えてくる。重力が精度よく計測されると、3Dモデルによる体積を用いてリュウグウの平均密度が算出できる、この時に中に空隙がたくさんあるようなラブルパイルかどうかの判断がつくことが期待されている。

 「はやぶさ2」に搭載された主な観測装置
 
TIR :中間赤外カメラ、表面の温度を赤外線で測る
 
LIDAR:レーザ高度計、レーザ光を発してその戻りまでの時間を計測することで表面までの距離を測る
 ONC-T:光学航法カメラ(望遠)、詳細な表面の画像を得る

  

 

 

小笠原 雅弘(おがさわら まさひろ)
 NEC、チーム「はやぶさ」メンバー。軌道系、航法誘導系担当、特にイトカワへの着陸に使われたターゲットマーカやフラッシュランプを手がけた。1985年にはじめてハレー彗星へ旅した「さきがけ」をはじめ、スイングバイ技術を修得した「ひてん」、月のハイビジョン映像を地球に送り届けた「かぐや」など日本の太陽系探査衛星にずっと携わってきたエンジニア。
現在、NEC航空宇宙システム勤務。