[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

筑波大学~エンパワーメント情報学プログラムとエンパワースタジオ

(2017年2月15日)

”Large Space”を用いたアート作品 “Bird Song Diamond”

 「エンパワーメント情報学プログラム」は、文部科学省の博士課程教育リーディングプログラムに採択され、2013年に発足しました。これは産官学にわたって活躍できるグローバルリーダーとなる博士学生を育成するという5年一貫の学位プログラムです。エンパワーメント情報学は、人が本来持っている潜在力を引き出し、人々の生活の質を向上させることを目指し、人を補完し、人と協調し、人を拡張するという3つの柱を持ちます。「補完」とは、障がい者や高齢者などの身体や感覚の機能が低下した人を補助することで、「協調」とは、人が日常的に接する工学システムを、人と一体化するように調和させることであり、そして「拡張」とは、人が潜在的に有しているクリエイション機能を外在化し伸長させることです。グローバルリーダーの人材育成目標としては、「分野横断力」「現場力」「魅せ方力」の3つを掲げ、カリキュラムと達成度審査システムを構築しています。

 このプログラムの最大の特徴は、「エンパワースタジオ」です。これは、研究開発と人々の体験の場を融合したものであり、デモンストレーションによって第三者から評価を得て、それを次のステップの研究開発に活かす、というスタイルを実践する場となるように設計しました。このスタジオは実験室と展示ギャラリーを併せ持ったもので、研究棟と大空間棟があります。前者は研究室の壁を超えて学生がコラボレーションできる多機能実験室を備え、後者は展示スペースと大型実験装置を格納しています。グランドギャラリーと名づけた展示スペースでは、各種の機材を取り付けることができる可動式の展示什器を開発設置しており、多様なシステムの展示に対応できます。

 さらに大空間棟の最大の特徴である無柱構造を活かして、画期的な大型装置の導入を行いました。これが幅25m、奥行15m、高さ8mのVRシステム“Large Space”です。この直方体の全周の
壁と床に、プロジェクタ12台を用いて立体映像を投影します。それに加えてモーションキャプチャと、ワイヤー駆動で人を浮遊させるモーションベースも備えています。これらの機材はすべてトラスの上に取り付けられているので、内部空間は完全なオープンスペースとなっており、様々な研究目的に使うことが可能です。床が広大なために、多人数が同じ体験を共有することが可能になります。これは、最近急速に普及が進んでいるHMD(頭部装着ディスプレイ)が装着者1人にしか体験を与えられないという限界を打破するものです。

 また、この大空間を活かして世界最大の搭乗型ロボット“BigRobot”も作りました。これは人が巨人になった時の身体感覚を提示する装置なのですが、このようなものがスタジオにあることで、学生は「ここでは何でもありだ」という気になり、自主性が促進されます。事実、学生はこのスタジオのインフラを積極的にフル活用しており、コンテストにおける受賞や展覧会への招待展示など、数多くの目覚しい成果を挙げています。 http://www.emp.tsukuba.ac.jp/

                  大空間棟の前を走行する”BigRobot”

 

 

岩田洋夫(いわた ひろお)
1986年 東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)、同年筑波大学構造工学系助手。現在筑波大学システム情報系教授。バーチャルリアリティ、特にハプティックインタフェース、ロコモーションインタフェース、没入ディスプレイの研究に従事。SIGGRAPHのEmerging Technologiesに1994年より14年間続けて入選。Prix Ars Electronica 1996と2001においてインタラクティブアート部門honorary mentions受賞。2001年 文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。2011年 文部科学大臣表彰 科学技術書 受賞。2013年より、文科省博士課程教育リーディングプログラム「エンパワーメント情報学プログラム」リーダー。2016年より、日本バーチャルリアリティ学会会長。