[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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社会経済と科学技術イノベーションとの関係 ~歴史的な認識から~

(2018年6月01日)

科学技術と社会経済との関係イメージ図
(JST/CRDS 「研究開発戦略立案の方法論」を参考に作成)

 現在、インターネットの普及やAIの活用、医療技術の進歩などによって、我々の生活は急速に大きく変革しています。今後も、そのような技術の進歩とともに、科学技術による社会経済への影響は、よりいっそう大きくなることが予想されます。本コラムでは、そうした状況の理解の助けになることを期待し、社会経済と科学技術イノベーションを巡る状況について紹介したいと思います。

■科学技術への期待
 2012年にアベノミクスが公表され、金融政策、財政政策に続いて成長戦略が打ち出されました。そのことは当時頻繁に報道されており、今更お伝えするまでもないでしょう。しかしながら、その成長戦略の中の主要な施策の一つとして、新技術・新事業の創出が掲げられていることをご存じでしょうか。これまで、科学技術は学術の振興・発展に大きく寄与してきましたが、学術だけでなく我が国の経済成長においても一翼となることへの大きな期待が、こうした中に現れています。
 また、2014年、内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議は、科学技術・イノベーション政策の推進に向けた我が国の司令塔として、研究開発の成果の実業化によるイノベーション創出促進の役割を新たに担うことになりました。さらに、2015年に策定された第5期科学技術基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿(Society 5.0)が描かれ、新たな科学技術によってより良い社会の実現を目指していくことが示されています。
 国際的にも、国際連合が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた活動に対して、科学技術からの貢献が期待されています。こうした国内外の一連の動きにみられるように、最近になって、政治・行政、産業界などの間で、科学技術への関心が急速に高まっています。

■これまでの経緯を見つめ直す
 このような期待を含めて、我々が直面している社会経済と科学技術との関係を適切に理解するには、現在の動向に対してアンテナを敏感にしておくことが重要です。そして、それと同時に、これまで我々が経験した出来事が現在にどう通じているかを問うていくことも必要ではないでしょうか。そうしたこれまでの両者の歴史的な経緯を振り返るため、図1では、20世紀以降の社会経済動向における科学技術イノベーションを巡る動きについて時系列的に並べています。

図1 社会経済動向における科学技術イノベーションを巡る動きについて
http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/RR/CRDS-FY2018-RR-01/CRDS-FY2018-RR-01_00.pdf

 この年表の中では、社会経済や科学技術イノベーションに関連する主な出来事等を扱っています。例えば、20世紀前半に勃発した第一次世界大戦と第二次世界大戦は、科学と技術が兵器等の開発に大きく関わった戦争です。これら二つの大戦では各国において、国家が科学者や技術者を総動員して、戦闘機、潜水艦、戦車、毒ガスなど軍事技術の革新を強力に推し進めました。そして、結果的に、科学の理論的知識が具体的な軍事技術の開発に結びつけられ、科学技術の発展を促しました。こうした科学技術による軍事技術の開発への寄与は、社会経済と科学技術イノベーションとの関係を知る上で重要な出来事の一つです。

■歴史的認識から現在を読み解く
 上記では社会経済と科学技術イノベーション等に関する主な出来事として、二つの大戦に着目してその概要を紹介しました。しかしながら、これだけでなく、大戦前やその後の冷戦下、グローバル化の中で、両者がどのような経緯をたどってきたかを振り返り、歴史的な流れ全体を把握することが必要です。
現在、情報通信技術等の急速な発展が産業構造だけでなく、我々の生活にも変革をもたらしつつあります。今後、ますます科学技術が良くも悪くも我々の生活に密接に関わるようになってくるでしょう。そうした一連の動きの中で、現在の社会経済と科学技術イノベーション等との関係を適切に捉えていくため、これまで我々が経験してきた出来事を改めて認識すべきではないでしょうか。

 

【参考資料】
JST-CRDS 中間報告書「科学技術イノベーション政策の俯瞰 ~科学技術基本法の制定から現在まで~」
https://www.jst.go.jp/crds/report/report04/CRDS-FY2014-RR-05.html
JST-CRDS 調査報告書「社会経済動向と科学技術イノベーション政策の変遷」
https://www.jst.go.jp/crds/report/report04/CRDS-FY2018-RR-01.html

 

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
科学技術イノベーション政策ユニット フェロー
松尾 敬子

松尾 敬子(まつお けいこ)
 大阪大学工学部卒、東京大学大学院理学研究科博士後期課程修了(博士(理学))。東京大学ERATO研究員、消費者庁課長補佐を経て2013年より現職。これまでに、研究資金制度、科学的助言/リスクコミュニケーション、拠点形成事業などの科学技術イノベーション政策に関する調査分析等に従事。