[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

未来のエネルギーネットワークでは、私たちの家庭が主役?

(2017年11月15日)

■「電気」のネットワーク
       
-その特徴と今後の課題-
 
エネルギーネットワークは、電気、ガス、燃料(ガソリン、軽油、灯油等)など、私たちが活動する上で必要となるエネルギーを生産者から消費者まで配送するための設備、およびそれらを管理するための仕組みです。その中でも本コラムでは未来の低炭素化社会を考える上でその役割、そして課題も大きくなる「電気(電力)」のネットワークに注目します。
 電気は目では見えませんが、発電所で作られ、それが鉄塔や電信柱の電線を伝わって家庭等の消費者に送られています。電気は貯めておくことが苦手なため、発電所では使われる電力量に見合った分のみを調整しながら発電しています。私たちはあまり意識をしないで電気を使っていますが、この調整がうまくいかないと大規模な停電を引き起こすため、電気のネットワークを管理する電力会社では、時々刻々と変化する消費電力量をあらかじめ推定し、計画を立てながら、瞬時の発電量を常に調整しています。この作る電気の量と使う電気の量を常に合わせることを「同時同量」と呼んでおり、その同時同量にするための仕組みやシステムは電気のネットワークにおいて非常に重要なものになります。
 近年、化石燃料が不要な太陽光発電がCO2削減の手段として世界的に期待されています。日本でも太陽光パネルが遊休地に大規模にあるいは個人宅の屋根に設置されている風景を多く見かけるようになりました。ただ太陽光発電は発電がお天気任せですので、太陽光パネルの設置量が増えるにしたがい、先の「同時同量」の調整が難しくなります。これが太陽光発電の拡大を阻害する大きな原因になっており、それを克服するための技術開発(例えば大型の蓄電池など)も行われているものの、まだまだコストも高く、決定打といえる方法はない状況です。

■未来社会では一般家庭の役割が広がる
 
未来の一般家庭を考えると、太陽光発電や家庭用燃料電池などの電気を作る装置の普及、あるいは蓄電池としても使える電気自動車の普及が予想されています。現在の一般家庭では、使う電気を減らすこと(節電)しかできませんが、未来では電気を作ったり、電気を貯めたりできる家庭がたくさん存在することになるでしょう。これらの装置の数は場合によっては数百万台、数千万台に上る可能性もありますので、仮にこれら分散的に点在する多数の発電・蓄電装置をうまく制御し、全体として電気を有効に使う仕組みや技術ができれば、電力会社がわざわざ新たに大型の蓄電池を導入したり、発電所を新設したりすることがなくても、「同時同量」を安くかつ容易に調整できることが考えられます。これにより電気代が下がる、さらに太陽光発電で余った電気を隣家に安く売るなど、これまではできなかったことが未来には実現するかもしれません。この変革の実現のためには電気の流れを制御するための技術、多数の機器を情報通信技術で協調的に制御するための技術(IoT: Internet of Things, 8/110/15のコラム参照)の研究開発が必要になります。また工学的な研究以外に、制度面や市場の改革、さらには必ずしも合理的な判断のみで動くとは限らない、気まぐれともいえる私たち人間の行動の研究も必要になると言われています。これらの研究開発は欧米で先行している状況ですが、まだまだ始まったばかりであり、日本においても今後重要になると考えています。

 

(参考文献)
1) JST-CRDS戦略プロポーザル「未来エネルギーネットワークの基盤技術とエネルギー需要科学  ~2050年超の一般家庭でのエネルギー需給構造変化に向けて~」
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/SP/CRDS-FY2016-SP-04.pdf

2)JST-CRDS研究開発の俯瞰報告書「エネルギー分野(2017年)」p.292(3.13 分散協調型エネルギーマネジメントシステム)、p.386(3.21 スマートビル・ハウス)
https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FR/CRDS-FY2016-FR-02/CRDS-FY2016-FR-02_05.pdf

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
環境・エネルギーユニット フェロー
尾山 宏次

尾山宏次(おやま こうじ)
 1982年東京大学大学院工学系研究科反応化学専攻修士課程修了。同年、日本石油(株)(現・JXTGエネルギー(株))入社。主に自動車燃料品質、エンジン燃焼、自動車排気等の研究開発、および自動車業界と石油業界の共同研究に従事。2014年より科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。環境・エネルギー分野における技術・社会動向の俯瞰調査ならびに戦略プロポーザル作成に従事。博士(工学)。