[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

日本固有の白トリュフ、ホンセイヨウショウロの魅力に迫る!

(2022年10月15日)

ホンセイヨウショウロ(A).クヌギの根に形成されたホンセイヨウショウロの菌根(B).寒天培地上で形成された分生子(C, 矢印)と分生子から発芽した菌糸(D, 矢印)

 ホンセイヨウショウロ(Tuber japonicum)は私達が2016年に新種として報告した、未だ海外で発見されていない日本固有の白トリュフです。森林総合研究所では、大学や公設機関と協同で、この種を筆頭に国産トリュフの栽培に向けた研究を進めています。新種報告して以降、ホンセイヨウショウロの生理生態に関する研究を進める過程で、このトリュフが栽培に適しているだけでなく、非常に魅力的な食材であることが明らかとなりました。

 栽培に適しているとはどういうことでしょうか?

 1つめは、共生できる樹種が多いことです。トリュフを作るセイヨウショウロ属の菌類は菌根菌と呼ばれる樹木共生菌のため、トリュフの栽培には生きている樹木との共生関係の維持が不可欠です。私たちの研究グループでは、ホンセイヨウショウロがマツ科やブナ科など広汎な樹種と菌根共生が可能なことを明らかにしました[1]。

 2つめは、弱酸性土壌で発生することです。セイヨウショウロ属の種が生育地として好む土壌はpH7〜8の弱アルカリ性がほとんどですが、ホンセイヨウショウロは、日本の土壌で一般的とされるpH5〜7までの弱酸性から中性の範囲で発生します[2]。

 3つめは分生子とよばれる無性胞子を栄養培地上で形成する能力を持つことです[3]。分生子は発芽すると、菌根を形成することのできる菌糸へと成長するため、ホンセイヨウショウロの感染苗木を効率的に生産するための接種源としての活用を期待できます。

 トリュフというと、その独特な香りが世界三大珍味の一つとされるゆえんです。ヨーロッパで発生する最高級トリュフとして名高いTuber magnatumは、成熟時に、他のトリュフでは合成されない2, 4-ジチアペンタンというガーリック様の揮発性物質(香り物質)を放ちます。私たちは、ホンセイヨウショウロの香り物質を突き止めるため、成熟したトリュフが発する揮発性物質をガスクロマトグラフィーで分析しました。その結果、31種類の物質が検出され、なかでも3-メチル2,4-ジチアペンタンという、T. magnatumの香り物質に近似した揮発性物質が、ホンセイヨウショウロの主要な香り物質であることを明らかにしました[4]。実際に熟したホンセイヨウショウロからは、ガーリックや醗酵チーズのような芳ばしい香りがします。

 このように、ホンセイヨウショウロは、国内の広い範囲で栽培展開できるポテンシャルがあり、食材としても海外産の種類に引けをとらないトリュフといえるでしょう。今後も、ホンセイヨウショウロのみならず、国産トリュフの魅力を明らかにし、栽培化がいち早く実現するように研究開発を進めていきます。

 (本研究は生物特定産業研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(課題番号:04008B1)」により実施しています。)

 

【参考文献】

[1] Kinoshita A, Obase K, Yamanaka T. 2018. Ectomycorrhizae formed by three Japanese truffle species (Tuber japonicum, T. longispinosum, and T. himalayense) on indigenous oak and pine species. Mycorrhiza 28: 679–690.

[2] 古澤仁美, 山中高史, 木下晃彦, 仲野翔太, 野口享太郎, 小長谷啓介. 2020. 日本における2種のトリュフ(アジアクロセイヨウショウロおよびホンセイヨウショウロ) の生息地の土壌特性. 森林総合研究所研究報告 19: 55–67.

[3] Nakano S, Obase K, Nakamura N, Kinoshita A, Kuroda K, Yamanaka T. 2022. Mitospore formation on pure cultures of Tuber japonicum (Tuberaceae, Pezizales) in vitro. Mycorrhiza 32: 353–360.

[4] Shimokawa T, Kinoshita A, Kusumoto N, Nakano S, Nakamura N, Yamanaka T. 2020. Component features, odor-active volatiles, and acute oral toxicity of novel white‐colored truffle Tuber japonicum native to Japan. Food Science & Nutrition 8: 410–418.

 

【参照記事】

・ 「日本国内で採取された2種の「トリュフ」新種と確認(2016年9月27日発表)」

木下 晃彦(きのした・ あきひこ)

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所九州支所
森林微生物管理研究グループ、グループ長。
2007年広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程修了(学術博士)。
東京大学、国立科学博物館で非常勤職員を経て、2017年10月より現職。