[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

幼児にむけた科学実験遊びーSTEAM教育として(東京理科大学 川村 康文)

(2023年5月15日)

 レイ・カーツワイルは、「ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき」で、2045年ごろ、AI(人工知能)が人間を超えるという「シンギュラリティ」が生じるだろうと予想しています。シンギュラリティが到来すると、雇用形態が大きく変わり、多くのことが自動化されモノの価値が下がり、単純労働はAIやロボットに代わられ、多くの仕事が奪われる可能性があるとされています。産業構造も大きな変革が生じ、社会にも大きな影響をあたえると考えられており、ある意味、人類のあり方に変化が生じると予想されています。

 

 しかしAIは、情報のアルゴリズム(処理手順)であり、AIが新しい情報をインプットし続け、ゲームや単純作業などに強くなることはあっても、人間の感情表現など人間らしさを求められる分野までを対応することは難しいと考えられます。したがって、これからの人間教育に大切なのは、AIに任せらえる領域はAIに任せ、AIが得意とはしない人間の感情や独創性などの分野の力を伸ばしていくことではないかと考えられます。

 

 このような背景のなかで、STEAM教育や、非認知能力の育成に注目が集まり、多くの保育園、幼稚園、こども園から、STEAM教育としての理科実験を求める声が多くなってきました。STEAM教育とは、従前のSTEM教育にアートを加えた教育で、SはScience(サイエンス)のS、TはTechonology(テクノロジー)のT、EはEngineering(エンジニアリング・工学)のE、AはArt(アート)のA、そしてMはMathematics(算数/数学)のMで、これらの複合的な学びを実践していこうというものです。これまでの教育が正解を求め、それを覚えることが中心だったとすると、STEAM教育は必ずしも正解のない問いに向き合っていくことで、学ぶ意義と深さを求めていくものだといえます。

 

 

 幼児教育改革のねらいというと、漢字や計算、プログラミング学習などの小学校の学習内容を前倒しするのが良いかのように考え、それを取り入れて運営を行っている園も増えてきています。しかし本来は、幼児教育の根幹である体験や遊びを通じた学びの質を、どうやって高めていけばよいかであります。そこで、STEAM教育の必要性や非認知能力の育成の方法を活用しながら、科学あそびを工夫して導入することを試みました。保育園行事は過密なので、実験を加えることによりさらに過密さが増大することに配慮して、理科実験題目は保育園での年間の行事とすり合わせて、表に示すように設定しました。

 

行  事

実  験  内  容

4月 入園進級

細長風船でロケットを作って飛ばす実験

5月 子どもの日

サボニウス型風車という風車の工作実験

6月 梅雨

紫イモ粉を指示薬にして、酸・アルカリの実験

7月 七夕

蓄光シートを使って七夕の夜空を描こう

8月 夏休み、夏祭り、花火

アイスクリームを作る実験

9月 お月見

望遠鏡を作る実験

10月 ハローウイーン

水槽に野菜を入れて、浮く野菜・沈む野菜を調べよう実験

11月 秋の遠足

コマや、やじろべぇを作って遊ぼう

12月 クリスマス

偏光シートで色変わりをみて、クリスマスツリーの飾りを作ろう

1月 お正月

切り餅に絵を描き、焼いて膨らませると、絵はどうなる?

2月 バレンタインデー

エアー・イン・チョコを作ろう

3月 ひな祭り

プラコップを使ってトースタで熱してアクセサリーを作ろう

 

 このようなSTEAM教育実験によって、人間の感性を豊かに育てていくことができればと願っています。

 

【参考URL】

・風船ロケット https://www.youtube.com/watch?v=8UCOyew5ris&t=152s

・サボニウス型風車風力発電機 https://www.youtube.com/watch?v=OFqV0bmW2fc

・望遠鏡 https://www.youtube.com/watch?v=Ol61wBSBuss

・野菜の浮き沈み https://www.youtube.com/watch?v=sEdqNE7kjOw&t=5s

・偏光板での実験 https://hoppel-land.com/letters/steam-pendanto/

川村 康文(かわむら・やすふみ)

東京理科大学理学部第一部物理学科教授、北九州市科学館スペースLABO館長、(社)乳幼児STEM保育研究会理事、1959年、京都市生まれ。博士(エネルギー科学)。
歌う大学教授(youtube.com/channel/UCkvlkwzpeJByKw5BA4m5ZRA/featured)みんなが明るく楽しくなる「ぷち発明」基礎とした「かわむらメソッド」を提唱!
 専門は、STEAM教育、科学教育、サイエンス・コミュニケーション。高校物理教師を約20年間務めた後、信州大学助教授、東京理科大学助教授・准教授を経て2008年4月より現職。大学院は理科学研究科科学教育専攻所属。
 2022年4月より、北九州市科学館スペースLABO館長を兼任。