[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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公開オンラインセミナー「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」開催レポート

(2021年8月15日)

 7月1日(木)、国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術開発センター(RISTEX)が主催する「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」公開オンラインセミナーが開催されました。また、RISTEXは5月から新たに本プログラムの公募を開始しており、募集説明会もセミナーに合わせて開催されました。セミナーでは、浦 光博プログラム総括によるプログラムの主旨や概要の説明が行われたほか、社会的孤立・孤独に関して取り組んでいる統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター 特任准教授 岡 檀先生と、株式会社ゲーム・フォー・イット 代表取締役社長 後藤 誠氏が登場し、社会的孤立・孤独問題をテーマにディスカッションが行われました。

 冒頭、プログラムの背景や主旨を説明いただいた浦 光博プログラム総括によると、SDGsの目標とターゲットが「誰一人置き去りにしない (No one will be left behind)」という基本理念の下に掲げられていることから、社会的孤立・孤独問題の解決は、SDGsの理念という意味での出発点であり、具体的な到達点としての終着点でもあると考えられます。つまりは、SDGsの達成には社会的孤立・孤独問題の解決が欠かせないといえます。

 現代社会は近代化・個人化が進み、伝統的なつながりから解放されて、自由やプライバシーが守られるようになった一方で、関わりの希薄化や人口の減少・少子高齢化、新型コロナウイルス感染症等の新興感染症による影響など、社会の構造が変化する中で、孤立・孤独状態に陥っていることに気づきにくくなることがあります。今年の5月に野村総研が、全国の20代~80代の男女2,204人を対象として行ったインターネットアンケート(※1)では、20代~30代の若年層の2人に1人が日常において孤独を感じていることや、新型コロナウイルス流行前と比較して世帯収入・世帯貯蓄が減ったひとのうち約7割が孤独を感じる頻度が増えているという調査結果が出ており、これまでの孤独のイメージとは異なる層にも潜在的な孤独が存在することが明らかになりました。

 政府も内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置するなど、社会的不安に寄り添い、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について総合的な対策を推進しています。RISTEXでは、社会的孤立・孤独はSDGsの重要な観点の一つであることから、「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」(※2)の下で特別枠として、「社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築」を2021年に設定しました。今後、社会的孤立・孤独の要因やメカニズムを明らかにし、人文・社会科学などの知見を使った学術的な研究から社会的孤立・孤独リスクの可視化・評価手法(指標等)、社会的孤立・孤独の予防施策の開発とその概念実証までを、国内の特定地域や、学校、職場、コミュニティなどの施策現場と協働して一体的に実施していく予定となっています。

                              研究開発要素①②③の一体的推進 概念図

 

 セミナーではその後、社会的孤立・孤独に関する取り組みをされている2人の専門家から、プログラムにつながる研究や事例が紹介されました。

 人の生活基盤であるコミュニティをキーワードに、健康社会学、社会疫学分野において、フィールド調査や、社会的要因の数値化、さらに指標化を目指したデータ解析を行っている岡先生からは、「自殺希少地域の研究から得られた気づき」をテーマに、人間行動科学を取り入れた孤立・孤独の対策とその有効性についての話題提供がありました。日本で“最も”自殺の少ない町である「徳島県 旧海部町」の住民の方々に見られる、自殺リスクを抑制すると思われる様々な要素をあげられましたが、一番大きな要素として「病は市(いち)に出せ」という海部町に伝わる言葉をあげられています。この言葉は、「生きていく上での悩みやトラブルをオープンな場所に出せるような環境を作る」という意味であり、やせ我慢などを戒め、早期開示を促す言葉です。孤独・孤立を感じる人は悩みが大きいほど相談をすることに抵抗を感じる傾向にあるため、リアルコミュニケーションにおいて、普段から相談をできる環境、助けを求めやすい雰囲気の醸成が大切になってきます。海部町での研究を基に、岡先生はさらに町の空間構造に着目され、路地が多いほど、短いけれど連続的なコミュニケーションができ、困りごとの“小出し”が習慣化されるなどして、自殺リスクが抑制されるのではないかという仮説をたて分析をされています。心身の健康に好影響をもたらす住環境の特性を「いいとこ取り」し、“仕掛け”として再構築することができれば、海部町以外の地域でも自殺リスクを抑制することにつながるのかもしれません。

 また、ゲームの力を使った社会課題の解決に取り組んでいる株式会社ゲーム・フォー・イット 代表取締役 後藤さんからは、「承認」をテーマに、物理的な孤立・孤独、非承認による孤立・孤独について話題提供が行われました。前者は、オンラインチャットツールや、バーチャルオフィスなどのIT技術が発達し、物理的な空間がなくなり、「場所にとらわれない社会」が実現しつつあることによって、解決がなされてきています。後者に関しては、ゲームによる承認の形があると、後藤さんは提言しています。子供がゲームを好むのは、ゲームは個人を承認するからです。承認されることで、孤立・孤独から解放されることになるため、ゲームから得る承認をいかに現実に生かすかが重要となってきます。現代社会では、ゲームは社会の中にさまざまな形で溶け込んでおり、新たな社会の形が生まれていますが、バーチャルの世界の承認と現実の世界の承認のバランスをどのように取っていくのかが、孤立・孤独を解消する一つの道筋になるのではないでしょうか。

 おふたりの話題提供後、浦 光博プログラム総括を交えた座談会では、リアルとバーチャルという異なる視点にて孤立・孤独を考えることによって、コミュニケーションの形は1つではないことを理解し、選択肢を広げてあげることが重要であるという再確認がされました。参加者から「“助けて”と言えない人はどうしたらよいのか?」という質問が寄せられると、「困っている人が出す小さなサインがある。そのサインを知ること」と後藤さんが回答し、浦 光博プログラム総括は、「日々、孤立や孤独を抱えている人と相対している現場の人が一番詳しい。プログラムの一つの特長として現場の人と研究者との連携をより積極的に推進していきたい」と現場と研究者との連携の強化の重要性に言及するなど、プログラムの理解を促進する対話が行われました。

 

                    オンラインセミナー風景:左から、浦総括、岡特任准教授、後藤社長

 

 2021年2月には、英国に次いで世界で2番目となる「孤独・孤立対策担当大臣」が任命され、内閣官房には「孤独・孤立対策担当室」が設置されました。新型コロナウイルスの流行によってリアルコミュニケーションが減り、より複雑化する中で、日本国内において孤立や孤独は一つの社会問題としてクローズアップされてきており、解決するための策が求められています。今まさに、研究者と社会の人々が「人が生きやすい社会にするためのアイデア」を連携して模索し、それを社会に適用するための活動のサポートが必要です。RISTEXは、孤立・孤独という社会問題を解決に導くようなプロジェクトのサポートを目指します。

 

 

参考文献

※1 株式会社野村総合研究所「新型コロナウイルス流行に係る生活の変化と孤独に関する調査」より

※2 RISTEXが、2019年度から推進している「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム

株式会社サニーサイドアップ  舩山 駿  (ふなやま しゅん)
※株式会社サニーサイドアップは、科学技術振興機構(JST)
社会技術研究開発センター(RISTEX)から広報支援業務を受託しています。