[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

ものづくりの未来を担うデジタルツイン 

(2018年12月01日)

図1 デジタルツインと未踏複合現象モデリングを支える多様な基盤技術

●デジタルツインって何?
 「デジタルツイン(デジタルの双子)」は、ものづくりやサービスを革新するデジタル化技術として最近注目されています。IoT(モノのインターネット)などを活用して、現実世界の情報をほぼリアルタイムでサイバー空間に送り、サイバー空間内に現実世界の環境を複製した仮想世界を構築することから、“双子(ツイン)”と呼ばれています(図1)。従来、現実世界の環境を複製するには、現実世界の情報を人が入出力していたため、サイバー空間に入力されるデータの量はある程度限定され、現実世界をそのまま再現することは不可能でした。しかしながら、IoTの普及によりリアルタイムのデータ自動取得が可能となった結果、ある一定の条件のもとでは、現実世界を仮想世界に再現することができるようになり、デジタルツインが着目されるようになりました。
 デジタルツインの環境を利用することで、現実世界の状態監視を行えるほか、シミュレーションなどを行えます。すなわち、このサイバー空間でのシミュレーション結果から、現実世界における将来の変化や故障を推測できます。このほか、構築したデジタルツインモデルに対してシミュレーションを行うことで、現実世界における試作なしに、新たな開発などが行えます。デジタルツインで最も大きく期待されている点は、これらの点といえます。
 ただ、現実世界を仮想世界に完全に反映するには、複合現象からなる現実世界を表現するシミュレーション数理物理モデルがまだ十分にできていません。さらに数多くの物理モデルの構築とそのシミュレーション手法の確立が必要になります。デジタルツインでは、材料、製造、構造・強度、機械、燃焼、伝熱、流体、振動、化学、電気などの様々な基盤技術分野をまたがる、まだよくわかっていない未踏複合現象モデルを考えたり、確かめたりすることが今後ますます大切です。未踏複合現象モデルとしては、例えば、機械部品が損傷するプロセスを様々な外部の環境を考慮して表現する数理物理モデルなどが挙げられるでしょう。物理モデルの基礎となる亀裂発生・破壊などの物理・化学現象をよく解明し、適切なモデルを構築していくことが、今、求められています。
 

●身近なところではどのようなものに関係しているの?
 サイバー空間に現実世界を双子のように再現するデジタルツインの概念は、元来、設備などの装置から都市や地域コミュニティまでさまざまな業界・領域に展開できる概念ですが、これまでは主に、開発、設計、製造、保守などのものづくりで用いられてきています。特にデジタルツイン活用の効果が大きいのは、ものづくり技術の難易度が高く、開発期間・コストが大きい環境・エネルギー・輸送などに関する機器・サービス領域です(図2)。身近なところでは例えば、風車、ガスタービン、蒸気タービン、自動車、工作機械、船舶海洋等の環境・エネルギー機器、輸送機器などが挙げられるでしょう。デジタルツインを活用した開発により、これらの機器の効率が高くなったり、機能が増したり、寿命が予測できたりするのに加え、開発期間や開発コストも減り、ものづくり現場の生産性革命と低炭素社会の実現が期待できます。

図2 デジタルツイン活用の効果が大きい製品分野・領域

 

●今後、どういうところに注目すればいいの?
 ものづくりを含めた産業全体のデジタル化は確実に進んでおり、世界でデジタルツインへのさまざまな取り組みが始まっております。今後、デジタルツインの普及によりものづくりやサービスのプロセスは大きく変貌すると考えられます。
 冒頭でも述べましたように、デジタルツインの最も大きな価値はシミュレーションということで、その潮流から計算機支援工学に今大きな関心が寄せられています。計算機支援工学は最近10年で非常に進歩していますが、このデジタルツインにおける仮想世界での開発がさらに拡大するとみられ、これらの新たな計算機支援工学ソフトや会社などを大手企業が買収する動きが活発になっています。今後、構築されていく数多くの物理モデルやシミュレーション手法とあわせて、世界のデジタルツインの動向に注目していく必要があります。

 

参考文献
1) JST CRDS 戦略プロポーザル 「革新的デジタルツイン ~ものづくりの未来を担う複合現象モ
 デリングとその先進設計・製造基盤技術確立~/CRDS-FY2017-SP-01」
  https://www.jst.go.jp/crds/report/report01/CRDS-FY2017-SP-01.html
2) JST CRDS「研究開発の俯瞰報告書 エネルギー分野(2017年)」2.4 総括及び分野の今後の
 方向性
  https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FR/CRDS-FY2016-FR-02/CRDS-FY2016-FR-02_04.pdf
3) JST CRDS 調査報告書 「Beyond Disciplines -JST/CRDSが注目する12の異分野融合領域・
 横断テーマ (2018年)-/CRDS-FY2018-RR-02」2.3 サイバーフィジカルシステム(デジタ
   ルツイン)を用いた次世代設計・製造技術
  https://www.jst.go.jp/crds/report/report04/CRDS-FY2018-RR-02.html

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
環境・エネルギーユニット フェロー 
大平 竜也
 

 

大平 竜也(おおひらたつや)
 1992年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻博士課程修了。同年、三菱重工業(株)入社。主に、ガスタービン機器、原子力機器、薄膜太陽電池等のエネルギー機器の研究開発、および、エネルギー・環境技術の技術戦略立案、技術企画に従事。2004~2005年には、文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向センターにて、エネルギー・環境分野動向調査&政策提言を担当。2016年より科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。環境・エネルギー分野における技術・社会動向の俯瞰調査ならびに戦略プロポーザル作成に従事。専門は、原子力工学、機械工学。博士(工学)。