[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

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ここに注目!

「トランプ政権における科学技術政策について」

(2017年9月15日)

NIHメインキャンパスNo.1ビル

はじめに
 トランプ政権が誕生して半年以上が経過しましたが、世界最大の公的研究開発費を誇る米国の科学技術政策の行方はいまだ不透明です。本コラムでは、トランプ大統領の誕生から現在に至るまで、どのような政策案が示され、何が焦点となっており、今後何に注目すべきかについて紹介いたします。

大統領選挙をめぐって
 2016年11月8日の米国大統領選挙に先立ち、 トランプ候補およびクリントン候補の間で直接討論会が合計3回実施されましたが、科学技術に特化した内容が議論の対象となることはありませんでした。
 ただし、異なる場面において、トランプ候補は科学技術に関連する発言をしていました。例えば、米国の非防衛分野の研究開発において最大の予算を利用する国立衛生研究所(NIH)については予算の見直しが必要であると指摘し、気候変動の「存在自体について調査が必要である」などの発言については、科学技術コミュニティの懸念を引き起こしていました。

新大統領就任演説
 2017年1月20日の大統領就任式における演説において、トランプ氏は米国経済の再興、安全保障の強化などの主要メッセージを国民に示すと同時に、「宇宙の謎を解明」、「人類を病の惨禍から解放」、「未来のエネルギー、産業、そして技術を活用」といった科学技術に関連する姿勢を示しました。これらの言及が具体的にどのような政策につながるのか、その焦点となったのが新政権人事と予算です。

焦点① 新政権科学技術関連人事
 米国では大統領就任直後から、新政権における要職の人事が進められます。各省大臣、大統領府行政管理予算局(OMB)の責任者をはじめ、米国では4,000近くの職務が政治任用となります。しかし、多くの政治任用職の任命が遅れています。科学技術の予算編成に重要な役割を果たすOMBの局長には、裁量的経費の削減派であるミック・マルバニー氏が指名されました。このような中、新政権はどのような予算案を示したのでしょうか。

焦点② 新政権科学技術予算
 米国では、毎年2月の後半に次年度予算案(大統領予算教書)が議会に向けて提出されます。米国の会計年度は10月初日から翌年の9月末日ですので、トランプ政権により示される最初の予算案は2018年度の予算(2017年10月から2018年9月に執行)となります。
 2017年5月に示された新政権の予算案では、「米国を偉大にする新たな基礎を築く」という基本姿勢の下、国家安全保障の強化、連邦支出の削減、そして規制緩和の必要性が強く示されました。米国の国家予算では防衛費や医療費の一部が政策的な裁量で毎年変更できない「義務的経費」として計上されています。一方、科学技術予算の大部分は、大統領の裁量で予算額の提案が毎年可能な「裁量的経費」に含まれます。つまり、科学技術予算は大統領の裁量で、大きく変化しうる存在といえます。では、本予算案ではどのような内容が示されたのでしょうか。
 NIHを所管する保健福祉省(HHS)の研究開発費19%の削減、エネルギー省(DOE)内のハイリスク(挑戦的)研究プログラムARPA-Eの廃止、国立科学財団(NSF)の研究開発費12%削減、環境保護庁(EPA)の研究開発費46%の削減などが提案されました。ただし、航空宇宙局(NASA)では地球観測を削減する代わりに宇宙探索を強化する内容や、一部の安全保障関連部門についても増額が提案されている点は注目に値します。

               

今後の動向
 米国の予算編成においては議会が決定権をもつため、議会における審議を受けて、大統領予算案が大幅に修正される可能性は十分に想定されます。もし2017年9月末日までに予算の合意ができなければ、10月1日からは暫定予算で政府が運営される可能性が高くなります。その場合、ひとまず前年度と同水準で政府機能を維持することも可能となるため、科学技術予算の執行が可能となります。ただし、暫定予算の合意ができない場合、政府が閉鎖され行政機能が停止する事態も起こりえます。この場合は、科学予算の執行ができなくなります。米国の科学技術政策にとって、新政権初年度の予算審議がどのように進むのか、注目が必要です。

 

【参考文献】
(1) 米国:2018年度米国大統領予算教書 研究開発予算の概要
http://www.jst.go.jp/crds/report/report06/US20170621.html
(2) 米国科学技術情報基礎情報
https://www.jst.go.jp/crds/report/worldmap/n_america.html

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
海外動向ユニット フェロー
峯畑 昌道

 

峯畑 昌道(みねはた まさみち)
 専門は、安全保障・科学技術政策。2010年英国ブラッドフォード大学大学院平和学博士号取得、スイスブローシャー財団、米国戦略国際問題研究所(CSIS)・パシフィックフォーラムなどを経て、2013年より現職。