[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

「もんじゅ」の廃炉って?

(2018年4月15日)

 3月28日、高速増殖原型炉もんじゅの廃止措置計画が原子力規制委員会から認可されました。このニュース、研究活動の盛んなつくばで研究者の皆さん方がどのような反応をされましたでしょうか。今回は、研究学園都市発「つくばサイエンスニュース」の読者の方々にはいつもとはちょっと毛色の違った話題をお届けしましょう。同じ科学技術とは言え、開発軸上、時間軸上で研究開発のフェイズがつくばの研究群とあまりに違うプロジェクトのお話です。

 「もんじゅ」と言えば、どこかでお聞きになったこともあると思いますが、将来のエネルギーの安定供給のしくみとしてウランを有効利用する核燃料サイクルを実現するために研究開発されてきた原子炉=高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)です。核分裂を起こすウラン235は天然ウランの中にわずか0.7%しか含まれておらず、残る99.3%は核分裂を起こさないウラン238です。このウラン238は中性子を吸収することにより新しい燃料のプルトニウム239に変わる性質をもっています。この性質をうまく利用し、消費した以上の燃料を作り出すのが高速増殖炉です。すなわち、ウラン資源を最大限利用しようという狙いです。「もんじゅ」はそのプロトタイプ(原型炉)(熱出力71万キロワット 電気出力28万キロワット)であり、福井県敦賀市にあります。先輩の実験炉として、茨城県大洗町に発電を行わない高速実験炉「常陽」(熱出力14万キロワット)があります。
 その「もんじゅ」は平成6年4月に初臨界、平成7年8月に初送電、同年12月40%出力試験中に2次冷却材のナトリウムの漏えい事故を起こし、その後長期間停止状態が続きましたが、平成22年5月に運転再開(ゼロ出力試験)しました。しかし、その後もトラブルが続き、安全管理体制の改善など行われてきましたが、福島第一原子力発電所の事故を踏まえた新しい安全向上策への対応の最中、2年ほど前に運転継続か廃炉かが議論され、平成28年12月に「もんじゅ」は廃炉にすること、高速増殖炉(以下、高速炉)の開発は、「もんじゅ」は使わず実験炉の「常陽」やフランスとの国際協力で継続していくことが国として決定されたのです。
 このため、「もんじゅ」の現場では高速炉の研究開発のための運転再開準備から大きく舵が切られ、廃止措置(廃炉)というフェイズに入り込みました。残念ながら、原型炉としての所期の目的(発電プラントとしての信頼性の実証と運転経験を通じたナトリウムを取扱う技術の確立)は達成されませんでした。今後は、国内外の先行知見を有効に活用しながら、安全かつ着実な廃止措置に向けた取組みが進められていくとともに、これまでの「もんじゅ」開発を通じて得られた成果に今後の廃止措置で取得する成果を加えて、将来の高速炉開発に最大限貢献していくこととなりました。
 さて、では「もんじゅ」の廃炉のポイントとは何でしょう?
 「もんじゅ」は運転時間が短く、かつ出力運転以降20年以上経過しており、炉心から発生する熱や放射能は十分に低く減衰し、1次冷却材の金属ナトリウムに蓄積された放射性物質の量も少ないことから、現状において、「もんじゅ」の抱えるリスクは運転時より低く保たれており、放射能の減衰を待つことなく廃止措置に取組むことが可能です。しかし、軽水炉にはない課題があります。「もんじゅ」の炉心での核分裂には軽水炉(普通の原子力発電所)のように水で減速された中性子(熱中性子)ではなく、速度の速いままの中性子(高速中性子)を用います。(高速増殖炉の「高速」の意味はここからきています。)このために原子炉の冷却材は水ではなく中性子を減速させない金属ナトリウムを用います。この金属ナトリウムを用いることが軽水炉の廃炉の場合と大きく異なる要因の一つとなっています。金属ナトリウムは化学的に反応しやすく、空気や水と接しないようにする必要があります。このため、原子炉内の燃料取出し時には、軽水炉のように空気中で原子炉の蓋を開けての作業ではなく、アルゴンガスで覆ったナトリウム中で燃料交換機を用いて、しかも炉心の構成から使用済燃料は一体ずつ模擬燃料体との差し替え操作をしながら抜き取られることとなります。さらに取り出した燃料要素は付着したナトリウムを洗い流した後に、水プールに保管することになります。「もんじゅ」では、このように軽水炉とは異なる方法で、今後の廃止措置作業を段階的に進めていくこととし、その作業計画を平成29年12月に原子力規制委員会に申請しました。この計画への認可が3月28日に下りたということです。
 計画では、廃炉にかかる期間は30年で、全体工程を4段階に区分し、段階的に作業は進められます。燃料体の取出しを最優先に実施し、第1段階(~平成34年度)として、今年7月から使用済燃料の取り出し作業を開始します。この第1段階では、燃料体の取出しと共に、燃料に接しない、したがって放射能のない2次冷却材のナトリウムも抜き取られます。平成30年度に系統から抜き取り、固体の状態で保管されます。一方、燃料に接する1次冷却系ナトリウム(放射能がある)の抜き取りは更に検討が必要となるため次の第2段階(解体準備期間)で行われ、併せてナトリウム機器の解体準備が行われる計画です。続いて3段階(廃止措置期間Ⅰ)ではいよいよナトリウム機器の解体撤去、そして最後の4段階(廃止措置期間Ⅱ)で建物等解体撤去が行われる計画となっています。
 この廃止措置全体の計画には、特に取り出した使用済燃料と抜き取ったナトリウムの措置を十分に考えておく必要があります。これらについては、具体的な計画及び方法を第1段階において検討し、第2段階に着手するまでに廃止措置計画に反映することとしています。
 「もんじゅ」では、これらの作業を安全確実に進めていくため、組織体制面も電気事業者、メーカーの協力も得ながら強化するとしています。特に燃料体の取出しなど燃料取扱のための教育訓練は既に開始されており、燃料取扱設備の点検も含め、まさにこの夏から始まる「もんじゅ」廃止措置プロジェクトの第一歩である燃料取出しに向けて準備が進められているとのことです。 多くの知恵で作り上げた高速増殖原型炉、「もんじゅ」の動向、やはり気になります。

 

 

瀬戸口 啓一(せとぐち けいいち)
 平成29年6月国立研究開発法人原子力研究開発機構退職後、同年7月より公益財団法人つくば科学万博記念財団運営部長。  現在は科学技術の持続的発展に向けて、将来の研究者である子供たち、科学技術へ再チャレンジの大人たちのため、科学技術コミュニティの場としてのつくばエキスポセンターの運営に努めている。