複数の病気に強いイネ、遺伝子組み換えで実現
―特殊なDNA配列使い収量落とさず本来の抵抗性を活性化
:農業生物資源研究所(2015年2月12日発表)

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「WRKY45」遺伝子の働きを示す。抵抗性誘導剤を散布すると、イネではWRKY45遺伝子が活性化し、抗菌作用などをもつ多数の防御因子を生産。遺伝子組み換えによりWRKY45遺伝子の働きを強化すると、抵抗性誘導剤を散布する必要なく、防御因子が常に生産され、病気に強くなる(提供:農業生物資源研究所)

 (独)農業生物資源研究所は2月12日、遺伝子組み換えでイネを複数の病気に強くする技術を開発したと発表した。イネが本来持っている病害抵抗性を活性化させる特殊なDNA(デオキシリボ核酸)配列を組み込むことで、いもち病菌系統4種と白葉枯病菌系統6種に対し抵抗性を持たせることに成功した。新技術はコムギなど他の穀類にも応用できるとみており、世界の主要農作物の安定生産に役立つと期待している。

 

■農薬使わず―途上国の生産安定に貢献期待

 

 イネはいもち病などの病原菌が感染すると、「WRKY45(ワーキー45)」と呼ばれる遺伝子が働き始め、それが引き金になって約300個もの遺伝子にさまざまな病害防御因子を作らせる。この引き金役の遺伝子の活性化には、プロモーターと呼ばれる特殊なDNA配列が重要な役割を果たすことが知られている。

 今回、この引き金役の遺伝子を活性化させる強度が異なる16種類のプロモーターを選び、イネに組み込んだ。それぞれの場合について、病原抵抗性の変化やイネの成長と収量にどう影響するかなどを調べた。

 その結果、引き金役の遺伝子を活性化させる強度が中程度のプロモーター「OsUbi7(オーエスユビ7)」を組み込んだとき、遺伝子の活性化が最適になることがわかった。4種のいもち病菌系統と海外を含む6種の白葉枯病菌系統に対して強い耐病性を示し、病原菌の系統によらず病原抵抗性が強化されたことが確認できた。

 引き金役遺伝子を活性化させるプロモーターを組み込むと病害抵抗性が強まることはこれまでも知られていたが、その働きが強過ぎるとイネの生育が悪くなり収量が減るなどの問題があった。しかし、プロモーターとしてOsUbi7を使うと、低温や塩などの環境因子に対して弱くなるようなことはなかった。国内と韓国とコロンビアで実施した野外生育実験でも、生育状況や収量がほとんど変わらなかった。

 引き金役の遺伝子の活性化には特殊な農薬も使われているが、途上国などではコスト面から難点があるとされている。新技術で生まれたイネは、通常の交配による育種技術にも使えるため、同研究所は「コロンビアの国際熱帯農業センターと共同で、途上国で利用されている品種との交配試験を進めたい」としている。

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