化学物質の安全性評価に新試験法
―ウサギの眼の代わりにヒトの角膜培養細胞使用
:農業生物資源研究所/国立医薬品食品衛生研究所/関東化学

 (独)農業生物資源研究所は8月9日、国立医薬品食品衛生研究所と総合試薬メーカーの関東化学(株)と共同で、化粧品や医薬品など化学物質の安全性をウサギの眼を使う代わりに、培養したヒトの角膜細胞で評価する新しい試験法を開発したと発表した。動物愛護の観点から世界的に動物実験の実施が難しくなる中で、動物を使わずに高感度で化学物質の安全性を評価する新しい手法となりそうだ。

 

■高感度で迅速に評価結果

 

 動物実験に代わってヒトの培養細胞を利用する試験法の開発は世界的に進められているが、これまで動物実験に完全に代替できる優れた試験法は確立されていなかった。
 研究グループは、ヒトの角膜の一番外側にあって、眼に入った異物と最初に接触する上皮組織に注目、これを細胞培養で再現して化学物質の安全性を評価する「眼刺激性試験法」の開発を試みた。
 まず、牛から抽出したコラーゲンを用いて開発した新素材「コラーゲンビトリゲル®」を細胞培養の土台にした。新素材は従来素材に比べて、約100倍の高密度でコラーゲン線維が凝集している。ゼラチン状のゲルにして薄膜にすると、薄膜の下側から栄養が供給でき、角膜上皮細胞を次々に何層も培養することができる。この特長を利用して、人間の眼と同様に角膜上皮細胞が6層重なった培養モデルを作った。
 さらに研究グループは、この培養モデルに化学物質を投与すると電気抵抗が変化することに着目、その変化を指標に30種類の化学物質の刺激の強さを評価する実験を試みた。その結果、従来法では無刺激性と評価されていた物質の中にも、非常に弱い刺激性を示す物質があることがわかった。
 研究グループは、この結果について「ウサギの眼の角膜の白濁や腫れ、細胞死を指標とする従来の試験法に比べ、高感度で再現性の高い評価結果がより迅速に得られる」と話している。今後は、第三者機関の評価も受けたうえで、国際的な統一試験法として登録を目指す。

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左は、コラーゲンビトリゲル®薄膜(白色リングの内側の透明な部分)。右は、その電子顕微鏡写真(提供:農業生物資源研究所)