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睡眠中の動物の脳を流れる赤血球を直接観察―特殊な顕微鏡使い成功、世界で初めての成果:筑波大学ほか

(2021年8月25日発表)

 筑波大学と京都大学は8月25日、睡眠中の動物の脳の毛細血管中の赤血球の流れを特殊な顕微鏡を使って直接観察することに成功したと発表した。世界でも初めての成果で、マウスの脳内の微細な毛細血管中を流れる赤血球の数がレム睡眠中に大幅に増えることを発見したという。

 研究を行ったのは筑波大国際統合睡眠医科学研究機構の林悠(はやしゆう)客員教授(京大大学院医学研究科教授兼任)らの研究グループ。

 哺乳類の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠とがある。眼球がピクピクと早く動く急速眼球運動(rapid eye movement. REM:レム)を伴う睡眠のことをレム睡眠と呼ぶ。人間の場合の総睡眠時間に占める両方の割合はノンレム睡眠約80%に対しレム睡眠は約20%。ノンレム睡眠の方が圧倒的に長くて研究も進み、たとえばノンレム睡眠中には成長ホルモンの分泌が増え、ストレスホルモンの分泌が抑えられるといった身体への寄与が分かってきている。しかし、レム睡眠の脳や身体の回復への寄与はまだ分かっていない。

 ところが、近年レム睡眠の割合が少ない成人はアルツハイマー病などの認知症発症のリスクが高いとする報告が相次いで出てきて、謎でなくなってきている。

 そこで研究グループは、今回睡眠中のマウスの脳の微細な環境を「二光子励起(れいき)顕微鏡」と呼ばれる特殊な顕微鏡を利用して調べることに取り組んだ。

 二光子励起顕微鏡は長い波長のレーザー光を使って生体の深部を画像化・可視化するイメージング化装置のこと。研究ではこの顕微鏡を駆使して睡眠中のマウスの大脳皮質(大脳表面の神経細胞)をさまざまな角度からくまなく観察した。

 その結果、世界で初めて睡眠中のマウスの脳の毛細血管中の赤血球の流れを直接観測することに成功。毛細血管中に流入する赤血球数は起きて運動をしている時と、深いノンレム睡眠中には差がないが、レム睡眠中は2倍近くに大幅に増えて毛細血管の血流が活発になることを発見した。

 このことから「大脳皮質の神経細胞はレム睡眠中活発に物質交換を行っていることが示唆された」と研究グループは語っており、レム睡眠の解明につながることが期待される。