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トウモロコシの根から硝化抑制物質を発見―温室効果ガスの削減と水質汚染を防ぎ、窒素循環の改善に期待:国際農林水産研究センターほか

(2021年7月29日発表)

 (国)国際農林水産研究センターと(国)農業・食品産業技術総合研究機構の共同研究グループは7月29日、トウモロコシの根から生物的硝化抑制物質(BNI)を発見したと発表した。これは作物が自ら分泌する物質で、田畑に過剰にまかれた窒素肥料から出る有害な窒素成分を抑える働きをする。温室効果ガスの発生や水質汚染などの緩和につながり、農業由来の環境汚染の抑制になるものと期待している。

 近代農業は工業的に生産されたアンモニア性の窒素肥料を大量に使って食料の増産を図ってきた。だが農地にまかれた窒素肥料の全てが作物生育に役立つわけではない。まかれた肥料の50%以上が作物に吸収されず、過剰肥料は土壌中の細菌によって亜酸化窒素(N2O)に変換(硝化)され、大気中に放出される。

 この時発生するN2OはCO2の約300倍もある強力な温室効果物質である。世界の農地からのN2O発生量は、温室効果ガスのCO2 に換算すると年間7億tにも上ると試算されている。

 急速な経済成長が進むブラジルや中国、インドでのN2O排出の増加は最も顕著で、旺盛な食料需要に押されてますます増加し続け、農業由来の温室効果ガス抑制対策が環境問題の大きな課題になっている。

 さらに余分に放出された硝酸性窒素は地下水や河川を通じて流出し、飲料水に混じると乳児の酸素欠乏症などを引き起こす原因にもなっている。

 またN2Oが成層圏にまで拡散すると反応性の高い窒素酸化物(NOx)に変化し、地球を取り囲むオゾン層を破壊する。フロンが規制されて以来、N2Oがオゾン層破壊の主要因となっている。

 こうしたN2O対策として国際農研では、作物自身が根から分泌する物質に硝化抑制効果のあることに注目していた。作物由来のため過剰分泌にはならず、根の周辺で最大に効果を発揮することから生態系を撹乱する恐れがなく、扱いやすさも利点とみられる。

 研究グループはこれまで、熱帯牧草やイネ科のソルガムなどから硝化抑制物質を探索していた。今回はトウモロコシの根の表層に分布する水に溶けにくい疎水性成分から抽出に成功した。

 根の表層を有機溶媒で抽出し、高度な分離、精製によって自然界では初めての硝化抑制物質を発見した。化学構造も決定し「ゼアノン」と命名した。この他にも3種の強力な硝化抑制物質を見つけている。

 ゼアノンを含む4物質だけでもトウモロコシの根の持つ全硝化抑制作用のうち45%相当の活性があることを明らかにした。今後は硝化抑制をもっと強化したトウモロコシなどの開発に挑戦するとともに、他にも新たな抑制効果のある作物を探索することにしている。