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新触媒を開発してカルボン酸の合成法を改善―二酸化炭素の有効活用促進に貢献へ:新エネルギー・産業技術総合開発機構/産業技術総合研究所ほか

(2021年6月18日発表)

(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構は6月18日、(国)産業技術総合研究所、先端素材高速開発技術研究組合、(株)日本触媒と共同で、化学品の基幹原料となるカルボン酸を、安全性が高く環境に優しい方法で合成する技術を開発したと発表した。二酸化炭素(CO2)から得られるギ酸を原料に用いるため、カーボンリサイクル社会実現への貢献が期待されるという。

 カルボン酸はポリエステルや、アクリル樹脂の一種であるPMMA、高吸水性樹脂などの高分子材料をはじめ、医薬品や農薬などの基幹原料として幅広い活用が期待されている化合物。
 ギ酸とアルケン(炭素-炭素二重結合を有する有機化合物)を原料に、ヒドロキシカルボニル化と呼ばれる反応により、副生成物の産出なしにカルボン酸を合成できる。しかし、これまでの合成技術は、高圧を要する、毒性・爆発性のあるガスを用いる、環境負荷の大きい添加物を使用する、などの問題を抱えていた。

 研究グループは今回、この反応に用いられる「ロジウム錯体」触媒とその反応条件などを詳しく調べ、同じロジウム錯体の仲間ではあるが、二つのヨウ素配位子と一つのヒドリド配位子を持つ新たなロジウム錯体触媒を開発した。
 この新触媒を用いた合成では、添加物を必要としないギ酸を使い、アルケンのヒドロキシカルボニル化が確認された。
また、ギ酸の反応を加速することが知られている酢酸を溶媒として用いることで、添加剤を加えることなく、シクロヘキサンカルボン酸を高収率で得られた。
 新触媒によるこうした反応変化に伴い、高圧条件が必要なくなり、有毒で爆発性の高い一酸化炭素ガスの使用からも解放された。

 これらの結果から、新技術は安全で環境調和性の高い新たなカルボン酸合成法であるとし、研究グループは今後、反応効率をさらに向上させるとともに、触媒の高速合成を目指すとしている。
 原料として使うギ酸は二酸化炭素(CO2)と水素(H2)から合成できるので、新技術が実用化されればCO2を炭素資源として利用するカーボンリサイクル社会実現への貢献が期待されるという。