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次世代半導体の電子スピン状態を原子レベルで解明―NMRの電子版「電子スピン共鳴」を用いて計測:筑波大学

(2021年3月5日発表)

 筑波大学は3月5日、電子の電荷だけではなく電子の磁性(スピン)も活用する次世代の半導体材料として注目されている遷移金属ダイカルコゲナイドの電子スピン状態を原子レベルで解明することに成功したと発表した。次世代のトランジスタ開発などへの貢献が期待されるという。

 遷移金属ダイカルコゲナイドは、周期表で第3族から第11族に存在する遷移金属と、第16族のカルコゲンと呼ばれる元素から成る物質で、今回調べたのはそのうちの二硫化モリブデン(MoS2)という原子層物質。

 原子層一層から数層の厚みしかない2次元シート状物質を原子層物質と呼び、炭素原子が六角形の格子状に連なった原子層物質のグラフェン(グラファイトの2次元シート)が発見されて以来、原子層物質の優れた特性が注目され、中でも遷移金属ダイカルコゲナイドは次世代の半導体材料として高い関心を集めている。

 この物質の開拓には、電子が持つスピンという性質の状態を原子レベルのミクロな観点で知る必要があるが、これまでは解明されていなかった。

 研究グループは、トランジスタ動作時に電子スピン共鳴を計測する手法を世界に先駆けて開発し、この手法を用いて今回、代表的な遷移金属ダイカルコゲナイドである二硫化モリブデンの薄膜トランジスタ動作時の電子スピン共鳴を捉えた。

 電子スピン共鳴は、電子スピンの磁気共鳴現象のことで、核磁気共鳴(NMR)の電子版にあたる。研究では、3種類の電子スピン共鳴の信号を検出し、電子スピン状態を解析した結果、3種類の信号はそれぞれ、伝導電子、二硫化モリブデン(MoS2)中のS原子空孔、MoS6原子空孔に由来することを突き止めた。

 また、従来の典型的な原子層物質グラフェンとは異なるスピン散乱機構が生じていることがわかった。

 今回の計測手法を活用すれば原子層物質の動作機構について原子レベルの情報が得られることから、今後、磁性を活かした新たな半導体開発への貢献が期待されるとしている。