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ブラインドサッカー選手は頭を下向きに大きく動かしボールを捉える―ボールの音を聞いて動きにつなげる手立てを発見:筑波大学

(2020年11月24日発表)

 ブラインドサッカー選手がプレー中に、音を出しながら転がるボール(音源)をどのように捉えるかが良く分かってなかったが、筑波大学体育系の國部雅大(こくぶ まさひろ)助教らの研究グループは11月24日、ボールが打ち出された(投射)直後から足で捉える(トラップ)瞬間までの間、一貫して下向きに頭の角度の変化を大きくしていることを、実験的に突き止めたと発表した。

 目の不自由な人が音源の位置を正確に捉えるために、頭部を動かしながら聞き取る所作は知られていた。ブラインドサッカー専用のボールは転がると音が鳴り、選手はその音情報を捕捉するために頭部をボールの方向に動かすだろうと予想されていた。

 そこでブラインド選手が音源の位置をどのように正確に捉えるかを、一般の晴眼者と比較しながら探ることにした。

 頭と右足のつま先、踵(かかと)に赤外線反射マーカーを貼り、高速度カメラでプレー中の頭の角度などを測定し、下を向いた頭の角度や振幅(ボール捕獲までの時間内の頭部角度の変化)がどうなるかを解析した。

 ボールは4.5m離れた基準点と、左右に75cm、150cmずつずらした計5つのターゲットに向けて投げた。速度は秒速2.4m、2.2m、1.9mとした。ボールの速さと投射方向は、その都度任意に変えながら実施した。

 ボール捕捉の正確性は、右足のつま先と踵に貼ったマーカーの中間点が、ボールの中心から左右のどの方向にずれていたかで評価した。ブラインドサッカー選手6人と、未経験の一般の晴眼者6人を対象に、それぞれ36回ずつ繰り返した。

 その結果、ブラインド選手がボール捕捉をエラーする確率は晴眼者に比べ明確に少なかった。ボールを捕捉する瞬間の頭部角度や振幅は、ブラインド選手が頭を下向きにした角度は約37度、振幅約36度で、晴眼者(頭の角度約14度、振幅約18度)に比べて有意に大きいことが明らかになった。

 さらにボールが投げ出されてから捕捉までの間、ブラインド選手の頭部の角度は下向きに大きく変化させながら構えていることがわかった。

 このことからブラインド選手は、接近するボールの動きに対して下向きの頭の回転を合わせることで、より正確にボールの位置を捉えていることが示された。

 今回はボールの回転によって鳴る音だけの限定的なケースで実験した。実際のブラインドサッカーでは、味方や相手方選手の声など様々な音源が混じり合っていることから、今後は複合的な環境に合わせた実験を検討している。