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日本コムギのゲノム解読―国際共同研究で世界15品種と比較も:横浜市立大学/チューリッヒ大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2020年11月26日発表)

 横浜市立大学、(国)農業・食品産業技術総合研究機構、(国)産業技術総合研究所などの研究グループは11月26日、世界10カ国からなる国際共同研究コンソーシアムが世界各地で栽培されているコムギ15品種のゲノム(全遺伝情報)解読に成功したと発表した。分子レベルの遺伝情報を利用する分子育種に欠かせないデータが得られたことで、イネ、トウモロコシと並ぶ世界三大穀物の一つであるコムギの品種改良が飛躍的に進むと期待している。

 国際共同研究コンソーシアムは「国際コムギ 10+ゲノムプロジェクト」と名付けられ、日本からは京都大学や(株)ヒューマノーム研究所なども参加して日本チームを構成、さらにスイス・チューリッヒ大学も加わって日本の代表的なコムギの実用品種「小麦農林61号」の解析を担当した。

 ゲノム解析の結果、農林61号は欧米の他の品種と比べ、①ゲノムのDNA配列が大きく異なること、②過去の人間の手による育種の過程で野生種の染色体の大きな塊がパンコムギに取り入れられてきたことなどが明らかになり、農耕の歴史とともにコムギがどのように進化してきたかという歴史が見えてきたという。その中で、農林61号を欧米の品種と比較すると、ゲノムDNAの配列が大きく異なることが浮き彫りになったという。

 農林61号は九州から北海道までの広い地域で栽培可能で、さまざまな環境に強いという特長を持っている。そのため、今回のゲノム解読によって明らかになったこうした優れた遺伝形質が、各国でのコムギの環境頑健性(がんけんせい)を高める研究と育種に活用されれば、世界的な食糧安全保障にも大きな役割を果たすと期待している。