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カビに内生する最小ゲノムサイズの細菌を分離―微生物間の共生現象のメカニズム解明に新知見:茨城大学

(2020年9月4日発表)

 茨城大学の研究グループは9月4日、カビの細胞内に生きる最小ゲノムサイズの内生細菌を分離・培養することに成功したと発表した。微生物間の共生現象のメカニズム解明に新たな知見が得られたとしている。

 分離したのは、糸状菌の菌糸に内生する細菌の一種。真核生物である糸状菌の細胞内にはBREと呼ばれる原核生物の内生細菌(バクテリア)が生息しており、近年、それらのBREと宿主糸状菌の共生現象における相互作用の仕組みの解明が進んでいる。

 研究グループはこれまでに糸状菌305菌株を分離し、このうち66菌株にBREを検出した。

 今回、BREのシステイン(アミノ酸)要求性を満たす専用の分離用培地で、これまでより低温で培養したところ、新たなBREのB2-EB株の分離・培養に成功した。

 B2-EB株からDNAを抽出して全ゲノムを解読した結果、これまで分離培養に成功したゲノムサイズの判明しているBREの中では最も小さいサイズのMycoavidus属細菌の未記載種であることが示唆された。

 B2-EB株の遺伝情報解析から、近縁の標準株と同様に、システイン輸送系の機能が欠失しているだけでなく、有機物代謝や転写・RNAプロセシング制御、シグナル伝達などに関わる遺伝子群が欠失していることが見出された。

 一方で、DNA修復系遺伝子のほとんどは保存されていたことから、ゲノム崩壊に至らないゲノム縮小化、すなわち宿主糸状菌の代謝に依存した生活様式、および内生を維持するために必要な特異的な機能のみが残ったと推察されたという。

 これらの成果は、微生物間の共生現象のメカニズムの理解はもとより、微生物間共生工学技術の発展への貢献が期待されるとしている。