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古い歴史のある草原ほど多様性が豊かで希少種が多い―動植物の絶滅危惧種を守るには、古い草原からの保全を優先する:筑波大学ほか

(2020年9月2日発表)

 筑波大学山岳科学センターの井上太貴大学院生と田中健太准教授、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の矢井田友暉大学院生と丑丸(うしまる)敦史教授らの研究グループは9月2日、数千年続く古い日本の草原(古草原)と、草原が森林化した後に再び造成した新しい草原(新草原)との間では、植物の多様性と種の多さが異なることを発見したと発表した。保全のためには歴史的な古草原を優先するよう呼びかけている。

 草原は250万年前の氷河期時代から日本列島に長く存在してきた代表的な生態系の一つ。洪水や土砂の移動、山火事などによって作られ、そこに草原性の動植物が住みついた。

 しかし産業構造の変化や農村人口の激減などで自然草原が減り、放牧や火入れ、草刈りなどの人手が入らなくなったため半自然草原も急速に減少した。草原性動植物の絶滅も懸念される。

 研究グループは、長野県上田市から須坂市に広がる菅平高原と蜂の原高原のスキー場周辺を研究対象に選び、植生の変化や植物の調査を実施した。

 この高原は奈良時代から放牧が続き、江戸・明治時代には周辺地域(上田、須坂)の共有の草刈り場としてほぼ全域で草原が維持されてきた。それが明治時代後半から利用されなくなり草原面積が激減した。現在ではスキー場草原や放牧場以外は森林になっている。

 研究グループは草原の歴史の古さ(継続期間)に注目、保全の優先度の基準になると考えた。スキー場周辺の植生の変化を地形図や空中写真から読み取って地図情報にし、「古草原」「新草原」「隣接する森林」に分けて詳しい植物の分布調査をした。

 スキー場草原の中には昔からの「古草原」と、いったん森林化した後に造成した「新草原」が混在している。研究対象は、約3割が古草原で、約1割が新草原、約4割が森林だった。スキー場や管理形態が似通っている中で「古草原」「新草原」「森林」の生態系を比較し、それぞれ6〜7か所の調査地を設け、草原の継続期間とこの間の履歴が生物群集に与える効果を検出した。

 古草原では植物種が最も多く34種を発見。絶滅危惧種は新草原が14種に対し、古草原は20種がみつかった。スキー場草原の中でも古草原が維持されている場所の保全優先度が高いことを明らかにできた。

 古草原は豊かで特有な植物群集が維持されていた。新草原は森林性の草木や樹木の若木が多くみられるものの、昔の草原性植物は森林化によってかなり失われ、再び草原に戻し半世紀以上経ってもまだ古草原時代の植物群が再生できないことも分かった。

 植物以外の生物やスキー場草原以外の生態系にも、草原の歴史性(継続期間)が希少種の豊かさの指標になる可能性があり、保全の優先度を進める上で欠かせないとしている。