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世界最高性能の半導体系トンネル磁気抵抗素子を―待機電力ゼロのコンピューター実現に道:産業技術総合研究所

(2016年9月16日発表)

 (国)産業技術総合研究所は9月16日、待機電力ゼロの超低消費電力コンピューターの実現に道をひらく電子素子を開発したと発表した。絶縁層でも非常に薄くすることで電流が流れる現象を利用した半導体系トンネル磁気抵抗(TMR)素子を実現、室温でも実用レベルの高性能を発揮することを確認した。5年後を目途に実用的な素子を開発、超低消費電力コンピューターの実用化につなげる。

 コンピューターなどのIT機器は現在、主要なメモリーや論理回路には不使用時にも記憶した情報を失わないよう待機電力が必要な揮発性素子を用いている。こうした待機電力を大幅に削減し抜本的な省電力化を実現するには、電源を切っても情報が失われることのない不揮発性素子の開発が不可欠とされていた。

 産総研は、不揮発性素子を実現するために全単結晶TMR素子に注目、その実現に取り組んだ。これまで培ってきた異種材料間膜成長技術などを駆使、二層の鉄強磁性体電極の間に厚さ数nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)という極めて薄い単結晶の酸化物半導体「酸化ガリウム(Ga2O3)」層を挟んだ全単結晶TMR素子を試作することに成功した。

 酸化物半導体層は通常は絶縁体だが、非常に薄くすることによって一定条件下で電気が流れるトンネル効果が表れる。新しい素子はこの現象を利用、二層の鉄強磁性体電極の磁化の向きを平行か反平行かに切り替えることによって酸化物半導体層の電気抵抗を変化させられるようにした。この結果、メモリーや論理回路として利用可能な不揮発性の半導体系TMRが実現できた。

 電気抵抗の変化率(磁気抵抗変化率=MR比)はメモリー素子の性能を評価する重要な指数で、その値が大きいほど高性能とされている。産総研は今回初めて室温でこのMR比を92%にすることに成功、実用化に必要とされる数十~100%以上という条件を達成した。不揮発性素子の研究では、これまで電子を磁石として見たてた電子スピンを利用したスピンFET(電界効果型トランジスタ)で高MR比を実現しようとする試みが世界的に進められてきたが、室温でのMR比は最高でも0.1%程度にとどまっていた。