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セレン化銀を使用した高性能熱電変換材料を開発―実用材料テルル化ビスマスに匹敵する性能を実現:産業技術総合研究所ほか

(2020年5月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所と未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合は5月28日、室温付近で優れた性能を示すセレン化銀(Ag2Se)から成る熱電変換材料を開発したと発表した。数十年にわたって唯一の実用材料であったテルル化ビスマス(Bi2Te3)に匹敵する熱電変換性能を、セレン化銀の結晶構造制御によって実現した。

 熱電変換材料は、熱を電気に、電気を熱に変換する性質を持った材料で、金属とこの材料の接合点に温度差をつけると起電力が発生するゼーベック効果、また、電極金属とこの材料を接合して電流を流すと接合部の温度が下降、または上昇するペルチェ効果を示す。

 未利用熱エネルギーの電気への変換や、電気を利用した冷却温度の精密制御などに利用されているが、室温付近で使用できる熱電変換材料としては現在テルル化ビスマスが唯一で、熱電変換材料の利用の拡大、普及に向けて性能の向上や新材料の開発が求められていた。

 研究グループは、近年新材料候補の一つとして精力的に研究されているセレン化銀を対象に、この材料がもつ弱点の原因解明と、その克服による性能の向上を試みた。

 優れた熱電変換材料には高い熱電出力因子と、低い熱伝導率が求められる。セレン化銀は熱伝導率は低いが熱電出力因子も低く、熱電変換材料の性能の指標である熱電性能指数ZTが低い値にとどまっていた。

 研究の結果、熱電出力因子の低い原因が結晶構造にあることを解明、セレンをわずかに過剰にしたり、イオウをわずかに添加することによって、弱点だった熱電出力因子を高めることに成功した。

 この成果は、ナノメートルレベルでの構造制御という新しい材料設計指針によって、室温付近で使用できる熱電変換材料のZTを大きく向上できること実証したもので、熱電変換技術の普及促進につながることが期待されるとしている。