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体細胞クローンの低出生率改善へ―胎盤形態異常の原因解明:理化学研究所

(2020年5月1日発表)

 (国)理化学研究所は51日、体細胞クローン技術で課題になっている低出生率の原因をマウスの実験で突き止めたと発表した。体細胞の核を移植した卵子を母親マウスの子宮に入れたときに、胎盤に低出生率の原因となる形態異常が起きる仕組みを初めて分子レベルで解明した。より質の高いクローン動物を作出できるほか、妊娠中の胎児の診断・医療技術の改善にも役立つという。

 突き止めたのは、理研バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の井上貴美子専任研究員、小倉淳郎室長らの研究チーム。

 体細胞クローン技術は、動物の体細胞から遺伝情報のかたまりである核を母親の卵子の核と入れ替えて妊娠させ、体細胞を提供した動物と同じ遺伝情報を持つ動物に育てる技術。1990年代末に初めて成功したが、母親が妊娠中に胎盤が異常に大きくなるなどして出生率が当初は5%以下、改良が進んだ現在でも最大20%程度だった。

 胎盤がなぜ異常に大きくなるかは20年以上にわたってナゾだったが、今回、研究チームは胎盤異常が「マイクロRNAmiRNA)」と呼ばれる小さな遺伝物質が妊娠期間の胎盤形成に大きな影響を与えていることを突き止めた。通常の妊娠では「ゲノム刷り込み」と呼ばれる仕組みによって父親側のmiRNAのみが働くが、体細胞クローンによる妊娠ではこの仕組みが機能せず、両親のmiRNAが働いて胎盤が異常に大きくなるなどの形成異常を起こすことが分かった。

 研究チームは、今回の成果によって「miRNAの正確な遺伝子発現制御が、胎盤形成で大きな役割を果たすことが明らかになった」として、より質の高いクローン動物を作出するほか、ヒトの妊娠中の胎盤異常の原因解明などにも役立つとみている。