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異常な生殖細胞を排除―“品質管理”の仕組み解明:筑波大学

(2020年4月23日発表)

 筑波大学は4月23日、有性生殖動物が生殖細胞(卵子と精子)を作る過程でDNAに損傷を受けた異常な細胞を排除する仕組みの存在を突き止めたと発表した。ショウジョウバエを用いた実験で、この仕組みに関わる遺伝子も特定した。今後は他の動物も含めて種の存続に不可欠な生殖細胞の“品質管理”に関する全体像の解明につなげる。 

 有性生殖動物では、受精卵が細胞分裂を繰り返す発生の過程で、生殖細胞になる「生殖系列細胞」が作られる。ショウジョウバエでは、その過程で生殖系列細胞のDNA上を動き回る遺伝子「トランスポゾン」の一種であるP因子によってDNAが損傷を受け、生殖系列細胞が消えてしまうPM雑種不稔という現象が知られている。

 筑波大学生存ダイナミクス研究センターの太田龍馬研究員と小林悟教授の研究グループはこの現象に注目、ショウジョウバエを用いてそのメカニズムを詳しく解析した。その結果、P因子が生殖系列細胞のMycと呼ばれる遺伝子に乗り移ると、本来なら生殖系列細胞で作られるはずのMycたんぱく質が十分に作られなくなった。反対に、P因子に乗り移られたMyc遺伝子を人為的に強制的に働かせてMycたんぱく質を十分に供給してやると、DNAに損傷を受けた生殖系列細胞でも排除されなくなった。

 これらの結果から、研究グループは「Mycたんぱく質の産生が低下することによって、DNAに損傷を受けた異常な生殖系列細胞が排除されることが明らかになった」と見ており、他の動物も含めて生殖細胞の品質管理機構を理解する重要な基盤になると期待している。