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植物由来の大気汚染物質―ホンモノは1~9%:国立環境研究所ほか

(2020年4月9日発表)

 (国)国立環境研究所と横浜市立大学は4月9日、大気汚染物質の生成源として知られる化学物質「テルペン二量体」のうち植物が放出するものは全体の1~9%と極めて少ないことが分かったと発表した。残りの大部分は試料の分析過程で人為的に生成されたことも確認、自然界の現象の正しい理解には測定装置の特徴を正確に把握してデータを正しく解析することが重要としている。

 国環研・環境計測研究センターの猪俣敏室長と横浜市大の関本奏子准教授の研究チームが明らかにした。

 大気汚染の研究では近年、多様な化学物質を個別にリアルタイムで測定できる質量分析技術「オンライン化学イオン化質量分析法(on-line CI-MS)」が使われている。植物が放出する炭化水素「モノテルペン」が大気中のオゾンと化学反応してできるテルペン二量体の生成メカニズムの解明にも貢献している。

 ただ、この技術を使うと分析の過程で高真空が必要となり、大気中で二つのモノテルペンが結合して作られる自然界のテルペン二量体とは性質の違うテルペン二量体が作られることが知られていた。これらを区別しないと、大気中での植物由来の大気汚染物質生成について正しい理解は得られないという問題があった。

 そこで研究チームは、衝突誘起解離法(CID)と呼ばれる分析技術を利用、性質の異なるテルペン二量体がどのような割合で含まれているかを分析した。その結果、大気中の光化学反応で生じた植物由来のテルペン二量体は、全体のわずか1~9%にとどまることが分かった。残りの大部分、91~99%は質量分析の過程で生じた人為的な生成物だった。

 研究チームは「近年、高性能な計測装置によって膨大なデータを簡単に取得できるようになった。しかし、そのデータの意味するところを間違って解釈すると、自然界で起きている現象を誤って理解することになる」と話している。