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18桁制度の可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功―東京スカイツリーで一般相対性理論を検証:東京大学/理化学研究所ほか

(2020年4月7日発表)

 東京大学と理化学研究所、島津製作所などの共同研究グループは、2020年4月7日、18桁の精度(百億年に一秒のずれに相当)をもつ可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功したと発表した。

 光格子時計は2001年、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊 准教授(当時)が考案した次世代の原子時計。現在、セシウム原子時計によって国際単位系の1秒が定義され、5,000万年に1秒のずれに相当する精度が実現されているが、この精度を100倍以上改善する時計となる。特別な波長のレーザー光を干渉させて作った微小空間に、レーザー冷却された原子を1つずつ捕獲し、原子同士の相互作用が起きないようにしたあと、これらの原子にレーザー光を当て光を吸収する「原子の振り子」を作り、その振動数から1秒の長さを決める。光格子全体には多数の原子を捕獲できるので、それらの「原子の振り子」の振動数を一度に測定して平均をとることで、短時間で時間を決めることができる。

 今回、東京スカイツリーの地上階と地上450mの展望台に設置した2台の可搬型光格子時計の進み方の違いを測定し、この結果を国土地理院が測定した標高差と比較する方法で、重力赤方偏移を高精度に観測し、一般相対性理論を検証した。重力赤方偏移は、重力が強いほど時間の進み方が遅くなり、重力場中での光の波長が伸びる(低い周波数にシフトする)。

 この結果得られた検証精度は、従来、1万kmの高低差を必要とした衛星を用いた実験に迫る。高精度な可搬型光格子時計の実験室外運転の実証は、光格子時計の社会実装に向けた大きな一歩だという。

 今後は、プレート運動や火山活動などに伴う地殻変動の監視など、従来の技術では考えられることのなかった新たな「相対論的センシング技術」の誕生が期待される。