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植物重量をもとに二酸化炭素の放出速度の推定法を定式化―炭素の排出・吸収モデルに組み込み、気候予測の高精度化に期待:国立環境研究所

(2020年3月31日発表)

 (国)国立環境研究所地球環境研究センターの伊藤昭彦室長のグループは、植物の呼吸による二酸化炭素(CO2)の放出速度をグローバルに推定する新しい関係式を作り、3月31日に発表した。この関係式から現在の植物全体による吸収速度は、炭素換算で年間約64ギガトン(1ギガは10億)のCO2と推定した。炭素循環モデルに適用することで、CO2の変化や収支、地球温暖化の予測の精度が向上できるとみている。

 樹木や草などの植物は、光合成によって大気中のCO2を吸収して酸素を生み出し、反対に酸素を吸って大気中にCO2を排出する呼吸活動をしている。呼吸速度は単位時間あたりに放出するCO2の量だが、その観測は極めて難しい。光合成のほぼ半分程度と推定されていたものの不確実性が大きかった。

 地球温暖化を正しく把握し適切な対策をとるためには、最大の原因物質であるCO2の変化と収支をより正確に解明する必要がある。そこで呼吸速度を決める要因の一つ、植物の重量サイズに着目して、地球全体にわたって適用できる推定方法の開発を目指した。

 関係式は2つの仮定を基に推定した。仮定1(代謝スケーリング、α)は、近年の研究から個体サイズと呼吸速度はべき乗(指数関数)の関係にある。仮定2(密度効果、β)は、植物の個体密度が高いほど平均的サイズは小さくなり、これもべき乗で表現される。

 こうして単位重さあたりの呼吸速度(rA)を表す次のモデルを導き出した。

 rA=c×Wvβ(α−1)/(1+β)  

 (Wvは全体の重量、αは仮定1のべき乗の指数、βは仮定2のべき乗の指数、cは係数)

 世界の様々な森林や草地での観測結果を報告した文献データ、143件をあたって関係式が成り立つことを確認した。

 その結果、植物のサイズが大きくなるほど単位重さあたりの呼吸速度は明らかに低下する傾向がみられた。仮説から予想されるように吸収速度はべき乗の数式で表され、指数は-0.535となった。

 つまり世界の植生の呼吸速度を決めるサイズの影響を、生物の代謝や密度に関する理論に基づいて解釈することができた。

 この関係式で世界の植物の年間呼吸速度を求めたところ64ギガトンと推定され、これまでの植生モデルによる計算や炭素の収支から推測される値に近かった。観測データに基づく新しい方法で、植物の呼吸によるCO2の放出量を確認できた。陸域植物の呼吸速度は、光合成のほぼ半分強に相当する重要な数値であることも分かった。

 関係式や植物の呼吸速度の分布は、陸域生態系の炭素循環を模擬するモデルの検証や高度化に使うことができる。ここではグローバルな陸域植物の吸収速度が光合成の半分強に相当するとの新たな推定結果が得られた。

 気候変動や土地利用などによって植物は増減するが、その場合の呼吸を正しく推定することで将来のCO2の変動や収支、ひいては人為起源のCO2を吸収した際の温暖化への影響度合いなど、気候変動予測にも貢献することが期待されている。