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キクの品種改良のためにDNAマーカーを開発―育種者の経験から、ゲノム情報で効率的な栽培へ:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2020年1月30日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構と(交財)かずさDNA研究所は1月30日、切り花の生産の中で最も多いキクを、より効率的に栽培するための品種改良に必要なDNAマーカーを開発したと発表した。需要期には国内で生産が追いつかず外国産に頼らざるを得なかったが、ゲノム情報の活用で品種改良が可能になるとみている。

 キクの年間出荷数は約19億本に上り、日本の全切花生産本数のうち3分の1を占める。ところがお盆やお彼岸の最盛期には、国内産だけでは間に合わず、赤道直下の国の産地からの輸入で凌いでいたが、最近は年間を通してこうした地域からの輸入が急増している。

 キクは長らくベテラン育種者の経験に頼って品種改良がされたため、なかなか生産量を伸ばせなかった。

 多くの植物は生存に必要な染色体のセットが二倍体、2セットでできている。キクはほぼ同じ6セットのゲノム(全遺伝情報)を持つ同質六倍体のため、ゲノム構造や遺伝様式が他の植物に比べて複雑で、品種改良の手段となるDNAマーカーの開発が困難だった。

 そこで農研機構とかずさDNA研究所は、花の形や生育・開花の習性がキクとよく似た標準的な構造の二倍体野生種のキクタニギクをモデル植物に使い、複雑な六倍体キクの問題を解くことにした。

 DNAの両端を別のハサミ(制限酵素)で切断し、遺伝子の目印となるDNA配列を読み取った。キクのゲノム配列断片の対応する部分を調べ、関与する遺伝子の特徴が染色体のどこにあるのかを明らかにした。

 こうして花弁の色に関するDNAマーカーの開発に挑み、これまで知られている花弁の色を決定する遺伝子のすぐ近くにDNAマーカーを見つけた。

 このDNAマーカーを使うことで、複数の有用な形質を導入するための時間と手間が大幅に軽減されるようになり、ゲノム情報を使ったキクの効率的な品種改良が進むものと見られている。