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高分子鎖の集合体がガラス化するプロセスを解明―プラスチックの力学特性の非破壊検査可能に:大阪大学/東京大学/筑波大学

(2019年12月19日発表)

 大阪大学と筑波大学、東京大学の共同研究グループは12月19日、高分子鎖が多数集まってガラス状に固まった高分子ガラス、いわゆるプラスチック固化体、のガラス化過程をコンピュータシミュレーションで再現し、固化のプロセスや性質を解明したと発表した。得られた知見はプラスチックの力学特性の非破壊検査などに応用が期待されるという

 プラスチックについてはこれまでに様々な研究が行われているが、高分子がたくさん連なった高分子鎖の集合体が固化し、ガラス化した状態で、どのように分子が振動するのかは分子レベルで明らかになっていなかった。

 研究グループは、分子動力学法と呼ばれるコンピュータシミュレーションにより、高分子鎖の集合体がガラスになる過程を再現し、ガラス化するプロセスを明らかにするとともに、高分子鎖を徐々に固くしたときに集合体全体の性質がどのように変化するかを詳細に解析した。

 集合体全体に歪を加えて硬さを計測したところ、高分子鎖1本の硬さは集合体全体の硬さを上昇させるが、歪み後にそれぞれの高分子鎖は大きく変形し、系全体の硬さは、鎖1本の硬さに対して相対的に非常に柔らかくなることが分かった。

 これは、多くのガラス物質にみられる非アフィン変形と呼ばれる効果に起因するもので、非アフィン変形は、物体の変形において、歪みの前後で分子の相対的な位置と方向が変化し異なることを指す。

 ほとんどのガラス物質にみられるボゾンピークと呼ばれる低エネルギー振動励起が、高分子ガラスにも存在し、テラヘルツ波領域で観測されることも突き止めた。さらに、ボゾンピークの振動数は高分子鎖の硬さによって変化しており、剪断弾性率のみによって記述されることを明らかにした。

 このことは、テラヘルツ波を用いてプラスチックのずり変形のしにくさなどの力学的特性を非破壊・非接触に検査できることを意味しており、応用面でも重要な知見が得られたとしている。