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北海道の針葉樹が衰退している―40年近い長期のモニタリングで判明:北海道大学/森林総合研究所

(2019年7月25日発表)

 北海道大学と(国)森林総合研究所の共同研究グループは725日、北海道の針葉樹が気候変動の影響により衰退していることが長期にわたる観察で分かったと発表した。気候変動が今後も加速すれば北海道の針広混交林は広葉樹の森に変わりかねない、と警鐘を鳴らしている。

 研究を行ったのは、北大北方生物圏フィールド科学センターの日浦勉教授らと森林総研の飯島勇人主任研究員らの研究グループ。

 北海道のような北半球の中緯度の地には、寒冷な気候に適応した針葉樹と広葉樹とが入り混じった針広混交林と呼ばれている森林が広がっている。研究は、その針広混交林の森林生態系に気候変動がどのような影響を及ぼしているのかを長期にわたってモニタリングすることで明らかにしようと同科学センターが保有する中川研究林を使って行った。

 中川研究林は、北海道の北部、道内有数の豪雪地帯である中川町と音威子府村(おといねっぷむら)にまたがる面積がおよそ1万9千ha(ヘクタール、1haは1万㎡)にも及ぶ広大な森林。起伏の激しい標高700mを越す山地だが、大小の川が流れサケ科魚類の産卵場所になっていて様々な植物が分布する。

 研究では、その広大な中川研究林の中の筬島(おさしま)原生保存林、パンケ原生保存林と呼ばれている17.5haのエリアの原生林に近い針広混交林を対象にして38年間という長期にわたってモニタリングを実施。1本1本の樹の個体識別を続け、成長・死亡・新規加入(新たに生えた木)を観測し、気温、降水量、台風による攪乱といった気候変動による影響を調べた。

 その結果、夏期の気温上昇と降水量増加が針葉樹の成長に負の影響を及ぼしており、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツの針葉樹全てで成長量が年々減少していることが判明した。それに対し、広葉樹のイタヤカエデ、ミヅナラ、ホオノキは、年々成長量が増加している。

 針葉樹は台風の際にも大きなダメージを受けており、2004年の台風では西向き斜面の針葉樹に深刻な被害が生じていたことが分かった。 

 研究グループは、得られた結果から調査を行った筬島原生保存林では針葉樹の割合が約20%減少しているとし、「このような気候変動が今後も加速すれば、原生状態の針広混交林が広葉樹林に改変されてしまうと予想される」と話している。