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気候変動対策による飢餓リスク低減費用を試算―GDP 0.18%相当の途上国援助でリスク回避:京都大学/立命館大学/国立環境研究所ほか

(2019年5月14日発表)

 気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」が掲げる、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるという目標を達成するには、対策の「副作用」で途上国の16,000万人が飢餓に陥る可能性があるが、世界の国内総生産(GDP)の0.18%の費用で、飢餓リスクを軽減できるというシミュレーション結果を514日、京都大学と立命館大学、(国)国立環境研究所など日欧の研究チームが発表した。

 来年始まるパリ協定は、気温上昇を2度未満にとどめる目標を掲げ、努力目標として1.5度にとどめることを目指している。温室効果ガスの大幅削減には、化石燃料から風力や太陽光など再生可能エネルギーの転換が必要となる。だが、再生可能エネルギーの中でもバイオマス燃料などを大量導入する場合、燃料用作物の生産が食料生産と競合する。このため、温室効果ガス削減策の「副作用」で食料価格が高騰することが懸念される。

 研究チームは、2度未満になるよう温室効果ガスの排出量を抑えるため、世界一律の炭素税を課すと仮定。課税によって、農業由来の排出削減策やバイオ燃料用作物生産への農地転換が進むが、食料価格は上昇する。

 シミュレーションの結果、飢餓リスクを考慮しない対策の下では、食料価格の高騰による、2050年時点で世界の16,000万人が飢餓に直面すると予測。食糧消費量は世界全体で年平均510%程度低下するという。

 一方、食料補償など直接的な支援の費用として、国際協力で途上国にGDP0.18%(約30兆円)の援助をすれば、飢餓のリスクは回避できるとの結果になった。この必要は再生可能エネルギーなど温室効果ガス削減策のコストよりも一桁小さいという。研究チームは「食料安全保障への影響を理由に、野心的な温室効果ガス削減策を否定すべきではない。野心的な対策を進めつつ、対策は土地利用や農業市場への配慮も合わせて行うことが必要だ」とする。