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物質内部の電子状態検出―高感度・高分解能センサに応用も:物質・材料研究機構ほか

(2019年3月22日発表)

 ()物質・材料研究機構と筑波大学は322日、物質や生体の内部をナノメートル(1nm10億分の1m)単位で探る高感度量子センサの実現につながる成果を得たと発表した。ダイヤモンド結晶の表面にレーザー光を照射したときに発生する光電流を検出、結晶内部の電子状態「単一スピン状態」を読み出すことに成功した。高感度でナノ単位の空間分解能を持つ磁気センサなどへの応用が期待できるという。

 物材研の寺地徳之主席研究員と筑波大の磯谷順一名誉教授らが、ドイツやベルギー、オーストリアの大学・研究機関と共同で明らかにした。

 物質や生体の内部の電場や磁場、温度を高感度検知する量子センサの開発が進められている。特にダイヤモンド結晶中では、ごく微量の窒素(N)と窒素原子の抜けた空孔(V)が隣接した結晶欠陥「NVセンタ」ができる。この欠陥は電子の状態を比較的安定したまま閉じ込めることができ、高感度でナノ空間分解能を持つ量子センサに応用できると期待されている。

 今回、研究グループはダイヤモンド結晶の表面にレーザー光を照射、初めて結晶表面にある単一のNVセンタから発生した電流を検出した。実験では、ダイヤモンド基板の表面にダイヤモンドの高純度層と窒素を極微量含むNVセンタ層を形成、高純度層とNVセンタ層の断層面が表面に現れるよう基板全体を斜め方向に精密研磨した。その結果、単一NVセンタが特定の領域に形成され、光電流検出による単一NVセンタのマッピングにも成功した。

 これまでNVセンタのスピン状態を読み出すには、レーザー光を照射した際にダイヤモンド結晶の表面から出てくる蛍光を検出していたが、蛍光を効率よく捉えることが難しくセンサの感度向上が難しかった。

 今回の成果について、研究グループは「ダイヤモンド表面に小さな電極を用いるだけでNVセンタのスピン状態を検出できる」として、量子センシング、量子情報処理のデバイスの小型化のカギになると期待している。