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全固体電池実用化に手がかり―高性能化に新たな開発指針:東京工業大学/日本工業大学/産業技術総合研究所ほか

(2018年11月22日発表)

 東京工業大学、日本工業大学、(国)産業技術総合研究所の研究グループは1122日、次世代大型蓄電池「全固体リチウムイオン電池」の実用化に道をひらく手掛かりを見つけたと発表した。全固体電池で電気自動車などに必要な高速充放電を難しくしている原因を突き止め、高性能化のための指針を明らかにした。

 リチウムイオン電池は携帯型電子機器などの電源として広く使われている。リチウムイオンが電解質を通して電極間で移動することで繰り返し充放電できる。ただ、電気自動車用などに実用化するには、従来の液体電解質に代わって安全性の高い高速充放電可能な高性能固体電解質の開発が欠かせないとされている。

 研究グループは今回、全固体リチウムイオン電池で高速充放電を実現する際の障害になっている原因を解明に乗り出した。全固体リチウムイオン電池では、充放電は固体電解質と電極との界面でリチウムイオンが移動することによって起きる。その高性能化にはこの移動を容易にする界面での高い伝導度が必要だが、研究グループはその実現のために何が必要かを詳しく調べた。

 実験では正極材料「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」と固体電解質「リン酸リチウム(Li3PO4)」の薄膜を作製、両材料が接する界面でのイオン伝導性と界面の構造を詳しく解析した。その結果、界面の作製条件によってリチウムイオンの移動のしやすさが大きく変わることが分かった。そこでX線回折などで界面構造を詳しく解析したところ、薄膜内部と同様に原子が規則正しく並んでいる界面ほどリチウムイオンが移動しやすく、反対に乱れていると移動しにくくなっていた。

 電極と固体電解質の界面抵抗を小さくすることが全固体リチウムイオン電池の高性能化につながることは分かっていたが、どうすれば界面抵抗を小さくできるのかはこれまで未解明で、明確な開発指針はなかった。今回初めて界面の原子配列の乱れが界面抵抗に大きく影響することが分かったことで、「全固体電池を実用化するための道筋が見えてきた」と研究グループは言っている。