[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

樹脂でガラス繊維強化プラスチック―自動車用部品作り実用性確認へ:産業技術総合研究所ほか

(2018年10月23日発表)

 (国)産業技術総合研究所、(国)森林研究・整備機構森林総合研究所などの研究グループは1023日、スギから抽出した樹脂成分を利用したガラス繊維強化プラスチック製のボンネットなど自動車用内外装部品の評価試験を始めたと発表した。世界で初めて実車に取り付け、今後一年程度かけて耐久性など実用性を確認する。2022年には環境にやさしい自動車としてブランド化を目指す。

 産総研、森林総研のほか(株)宮城化成、(株)光岡自動車が参加した研究グループが取り組んだのは、日本の固有種であるスギから抽出した樹脂成分「リグニン」の自動車用部品への応用。

 まず森林総研がスギに含まれるリグニンの均一性に注目、工業用素材として使うのに必要な加工性や機能性などの実現に取り組んだ。その結果、スギ木材に140℃のポリエチレングリコール(PEG)を加えて木材中のリグニンを分解すると、そのとき同時にリグニンがPEGと結合し工業用素材として応用できる改質リグニンが作れることを見出した。

 これを受けて、産総研はこの改質リグニンを使った複合材料の開発や製造プロセスを検討し、性能評価も進めた。その結果、宮城化成と共同で開発した改質リグニンを用いてガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を作ることで、引張弾性率が従来のGFRPよりも1020%高く引張力に対する変形を小さくできることが分かった。さらに耐久性の点でも優れたGFRPを作る技術を確立できた。

 そこで、この改質リグニンGFRPを自動車用部品に応用することを目指し、自動車用ドアの内張やスピーカーボックスなどの内装品だけでなく、高い強度や加工精度、塗装性が求められる外装部品であるボンネットも試作。光岡自動車と協力して実車に組み込み、その実用性を評価することにした。今後1年程度かけて温度や湿度など車内環境を自動計測するとともに、天候と走行を記録して部品の時間的変化を調べるなど、実用上の問題点を洗い出す。

 リグニンは木材の2535%を占める重要な高分子化合物だが、これまで実用的な材料への本格的な商用利用はされていなかった。