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拡張型心筋症の発症要因を解明―心筋内の酵素作成に異常:筑波大学

(2018年10月16日発表)

 筑波大学は1016日、1歳未満の乳幼児に多いといわれる拡張型心筋症が発症する要因を解明したと発表した。生体内でたんぱく質の機能を変換する役割をする特定の酵素が心筋内でうまく作れないことが発症につながる事実を、マウスを用いた実験で突き止めた。ヒトの拡張型心筋症発症メカニズムの理解につながるという。

 拡張型心筋症は心筋が薄くなって心臓が大きくなる病気で、乳幼児など若年者ほど予後が悪い病気として知られている。

 今回、筑波大の深水昭吉教授らの研究グループは、生体内で作られるたんぱく質の機能を一部変換して脳神経細胞や血管の形成など広範な役割を果たしているアルギニンメチル化酵素(PRMT1)に注目、これまで未解明だった心臓での働きを調べた。具体的にはPRMT1を作る遺伝子の欠けたマウスを遺伝子工学的手法で作製、マウスにどのような変化が現れるかを詳しく解析した。

 その結果、このマウスは若齢期に心収縮力の著しい低下や、心臓の拡大といった拡張型心筋症によく似た症状を示すことが分かった。また、マウスの心臓における遺伝子の働き方を網羅的に調べたところ、一つの遺伝子から複数種類のたんぱく質が作られる際に必要な、遺伝情報の不要な領域を除去する「選択的スプライシング」と呼ばれる過程に異常が生じていることを突き止めた。

 この結果から、研究グループは「PRMT1は心臓機能の維持に必須であることを示しており、その欠損が拡張型心筋症の発症に関係していることを示唆している」と結論付けた。また、実験用に作製したPRMT1遺伝子欠損マウスについては、今後、拡張型心筋症の発症メカニズムを解明するための有力な手段になると期待している。