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抗体医薬品に残存する粒径の小さな凝集体を除去―抗体医薬品の品質向上や長期安定保管に効力:産業技術総合研究所

(2018年9月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所は928日、抗体医薬品に残存する微量の抗体凝集体を選択的に除去する吸着剤を開発したと発表した。この吸着剤で処理すると保管中の抗体溶液から新たな凝集体が発生するのを抑えることもでき、抗体医薬品の品質向上や長期安定保管に道を開く技術として期待されるという。

 抗体医薬品は抗原に結合する抗体たんぱく質を医薬品としたもので、製造工程中に生じる様々な不純物を高純度に精製して製品化されている。薬理作用の低下や免疫原性の原因とも考えられている抗体凝集体は代表的な不純物の一つで、現在はフィルターによる除去などで残存量は5%未満に抑えられている。

 しかし、医薬品の管理基準を示す米国食品医薬品局(FDA)のガイドラインは凝集体量の可能な限りの低減と、保管中の凝集体の監視が重要であると指摘しており、凝集体のさらなる除去技術や凝集体の大幅な発生抑制技術が求められていた。

 産総研が今回開発した吸着剤は、抗体医薬品の不純物分析への活用を目指して先に創製したAF.2A1という小型人工たんぱく質を応用したもの。

 AF.2A1は天然型の立体構造の抗体には結合しないが、酸や熱などの物理的・化学的ストレスによって天然型立体構造が部分的に変化した抗体と特異的に結合する。また非天然型立体構造抗体にも結合する。

 今回、AF.2A1の特異的な分子認識機能を利用し、吸着剤を作製した。

 吸着・除去性能を調べたところ、現在用いられている0.2µm (マイクロメートル、1µm100万分の1m )メンブレンフィルターで取り除けない粒径の小さい凝集前駆体も除去できた。また、長期保管後の純度を調べた実験では、現行の手法で高純度に精製した抗体医薬品には凝集前駆体が少なからず残存しているが、新開発した吸着剤で凝集前駆体を除去すると保管中の抗体溶液からの凝集体発生を低減できることが分かった。

 産総研では今後企業と協力し開発技術の実用化を目指したいとしている。