[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

化学物質の物性値を高速・高精度で予測できる手法を開発―これまでの1万倍超す速さを実現:産業技術総合研究所ほか

(2018年9月19日発表)

 (国)産業技術総合研究所と東京大学生産技術研究所は919日、化学物質の物性値を高速・高精度で予測できる新手法を共同で開発したと発表した。これまでより遥かに速く予測できることから新材料の開発などへの利用が期待される。

 物性値とは、物質の持っている様々な性質を示した数値のこと。世界には膨大な種類の化学物質が存在し、米国化学会の化学物質データベースには約3,000万種が登録されている。

 化学物質の熱伝導度や光の吸収といった各種の物性値は、構成する元素の種類、分子の構造、化学結合の強さなどによって様々に変わることから、材料開発などでは物性値の計測が非常に重要となる。

 だが、現在ある化学物質の物性値を測る2つの方法には難点がある。一つの方法は、その物質を合成してそれぞれの物性値を現物を使って直接測る方法、もう一つはその化学物質の分子構造をコンピューターに入力して理論計算という手法で調べるという方法だが、どちらも様々な設備と専門知識や経験が必要な上に、長い時間を要し、理論計算の場合1回に数十時間かかる場合もあるといわれている。

 今回の方法は、ニューラルネット(脳の機能を模したコンピューターシステム)を利用して分子の物性値を高速・高精度で予測できるようにしたもので、理論計算より遥かに速い。

 研究グループは、開発した手法の処理能力を確認するため13万を超える化合物からなる大規模なデータベースをニューラルネットに学習させて予測に要する時間と精度を評価しているが、例えば原子化エネルギーを僅か100分の1秒、誤差0.01eV(電子ボルト)以下で予測している。これは、理論計算と同程度の精度を、理論計算の1万倍以上の速さで実現したことになる。

 産総研は「多数の候補化学物質の物性値を(この新手法により)網羅的に評価することで、より優れた機能や新しい機能を持つ化学物質を見出すプロセスを加速することが期待できる」と見ており、実際にこの手法を同研究所の材料開発に使って新たな化学物質の発見に役立てていくことにしている。